cafe de nimben

見たものと、読んだもの

日本の四季 近代絵画の巨匠たち @パナソニック汐留ミュージアム

その名の通り、日本近代絵画を春夏秋冬に分けて展示。そう大きくないミュージアムなのだけど、こじんまりとまとまっていてよかった。オフィスビルの中にあるので、一瞬戸惑ってしまうが。

トーハクの国宝『松林図屏風』をみた後だと、キービジュアルになっている東山魁夷もこの直線上にいるんだろうなあという感じがする。 

panasonic.co.jp

出展リストはこちら

https://panasonic.co.jp/es/museum/exhibition/18/180402/pdf/list.pdf

 

キービジュアルにもなっている東山魁夷の『山峡朝霧』(1983年) (秋に分類)は圧巻であった。

ぼかし方などが、長谷川等伯の『松林図屏風』の影響を感じているように思った。

川端龍子(1885生) の『五羽鶴』(冬に分類)には、加山又造(1927生)『群鶴図』との関係を感じる。

『朝陽』(1928年作: 秋に分類)は、坊さんが糸を針に通そうとする様子と、それを見守る猫という対比が可愛かった。堂本印象。

なお、堂本印象は京都に美術館があるみたい。

insho-domoto.com

 

季節と日本画をキュッとひとまとめにしてみることができたのは、存外に面白かった。

トーハクなどの大きなものとは、規模で勝ちようがないが、小規模ならば小規模なりの見せ方があるという知恵の使い方に脱帽。

名作誕生 つながる日本美術 @東京国立博物館平成館

キューレーション萌えの私としては、とても満足でした。幸か不幸か空いていて自由に徘徊できたし。

www.tnm.jp先に読むか、あとで読むかは別として、公式ページの解説は充実しているので、ぜひご覧あれ。

今は悪食な感じで色々見てみたい。しかし、自分で何が好きかわからない状態なので、「名作」 を流れで見せてくれるこういう展示会は、初心者の私にはとても助かる。

前期は5月6日で終わってしまったが、通期展示の物も、後半にお出ましの雪舟などもあるので、また行けたらいいなあ。

第1章祈りをつなぐ

テーマ1 一本の祈り

8世紀から10世紀の、主に薬師如来立像を中心に。いきなり8体がどどどっと展示されているのに圧倒される。

最初の仏像である、神福寺の唐時代の十一面観音様の素朴さが素敵。お鼻とか取れてしまっているのだが、静かな安らかな、つい拝んでしまう。

とはいえ、奈良時代のは素朴だが頭の大きさと体のバランスがまだあまりうまく取れていない気がする。といっても、これは唐招提寺の鑑真和尚からの流れの、木造一本造。

 

元興寺、木造薬師如来立像(国宝)/8-9世紀

Yakushi Nyorai Gankoji.jpg
By 国宝図録 第三集 財団法人 文化財協会 東京都千代田区霞ヶ関, パブリック・ドメイン, Link

 

Y字型衣文を見ると、仏様って、山野を歩き回っていて、大腿四頭筋が発達しているからああなるのかな、とか思ってしまう。どっしり。

試行錯誤の末に京都春光寺のバランスになっていく様子がよくわかる。

(バランスの好みは春光寺の、足から一直線なお姿でちょっとだけ前傾しているところ。他のは、まっすぐに立って、首だけを前に傾げている感じ)

近代まで、仏像の変遷をカバーして欲しかったけど、それは、なら仏像館に再訪せよ、ってことかな。

施設案内 - なら仏像館|奈良国立博物館

nimben.hatenablog.com

テーマ2 祈る普賢

普賢さん美しい。国宝二つの共演が見事。

普賢菩薩像』(東京国立博物館所蔵。平安時代12世紀)/ 5月6日まで

Fugen Bosatsu.jpg
By 不明  - Emuseum, パブリック・ドメイン, Link

 

蓮華座の小さい可愛い3尊が気になる。

「三化人」というらしいが、今ひとつ資料がweb上に少ない感じ。観普賢経の「象の頭上に三化人あり、一つは金輪を捉り、一つは摩尼珠を持し、一つは金剛杵を執る」(『日本の美術 269号』。ここからの孫引き 

crd.ndl.go.jp)

 

それが立体化したかのような、普賢菩薩騎象像(大倉集古館。平安時代12世紀)

騎象像なので、もちろん像さんの上に鎮座されています。その作り込みもきれい。

Samantabhadra Fugen Bosatsu Okura.JPG
By sculptor: Anonymous, 12th century, photo: Ken Domon (family name), (25th October 1909, Sakata, Japan – 15th September 1990, Tokyo, Japan ) a famous Japanese photographer - NIHON NO TYOKOKU ( JAPAN SCULTPURES), No.5, Heian Period, BIJYUTU-SHUPPAN Co., 1952-03-05, Tokyo, Japan, パブリック・ドメイン, Link

#大倉集古館って、改築工事中で2019年に再オープン予定なのか。それで貸し出されているのかしらね。

※三化人は見つけられなかった

 

普賢菩薩周りのキューレーター瀬谷愛さんによる解説

 

白象というと、私は若冲のこいつを思い出します。

Elephant and Whale Screens by Ito Jakuchu (Miho Museum)R.jpg
By Itō Jakuchū (1716-1800) - http://www.miho.or.jp/booth/html/imgbig/00012730.htm, パブリック・ドメイン, Link

出品されていませんが、伊藤若冲による普賢菩薩相国寺

Fugen.jpg
パブリック・ドメイン, Link

見たことあったっけ、と思ったら、2016年の動植綵絵+釈迦三尊の合計33幅一挙公開の時に拝見したことがあるらしい。人が多すぎたためか、記憶に残っていなかった。

nimben.hatenablog.com 

第2章 巨匠のつながり

テーマ4 雪舟と中国

雪舟。真面目に観るのは初めてかも。余白の使い方、ボケ感の使い方が素晴らしい。

 

国宝 破墨山水図 1495年

Sesshu - Haboku-Sansui.jpg
By Sesshū Tōyō (1420–1506) - Emuseum, パブリック・ドメイン, Link

 

前期だけだが、四季花鳥図を

雪舟、狩野元信、呂紀の三者が書いたものが横並びで、趣の違いを見るのが楽しかった

雪舟のは15世紀。(これはトーハクのもので、展示されていたのはキョーハクのもの)

SESHU Birds-flowers-L.jpeg
By Sesshū Tōyō (1420-1506) - scanned from a book, パブリック・ドメイン, Link

SESHU Birds-flowers-R.jpeg
By Sesshū Tōyō (1420-1506) - scanned from a book, パブリック・ドメイン, Link

私は個人的に琳派推しなので、ちょっとこれだと好みより複雑すぎるかなあ。『破墨山水図』のが好み。

テーマ5 宗達と古典

宗達頭おかしいわ(褒め言葉

平治物語の一部を扇に仕立てたテイにしたものを、図屏風にするって。

オリジナルを扇の形で範囲指定で取り出して、別の金屏風に貼る的な。(画像は探せず。無念)

テーマ6 若冲と模倣

若冲のパクリ、楽しい。鶴を、珍伯冲、狩野探幽と3人のを並べる。これは完全に模写。

若冲の鶏はいつ見ても楽しい。重文の仙人掌群鶏図屏風。

Ito Fusuma-e.jpg
By Ito Jakuchu - Catalogue, パブリック・ドメイン, Link

特別展『名作誕生-つながる日本美術』(東京国立博物館で開催) | みどころ | インタビュー「一木の祈り」

 

第3章 古典文学につながる

テーマ7 伊勢物語

尾形光琳伊勢物語 八橋図と八橋蒔絵螺鈿硯箱という、燕子花の連鎖。

伊勢物語 八橋図の写真が見当たらないので、伊勢物語でないけど光琳の別のを。こちらもMETにあるようです。

Irises at Yatsuhashi (left).jpg
By Ogata Kōrin (1658-1716) - Metropolitan Museum of Art, パブリック・ドメイン, Link

Irises at Yatsuhashi (right).jpg
By Ogata Kōrin (1658-1716) - Metropolitan Museum of Art, パブリック・ドメイン, Link

WritingBox EightBridges OgataKorin.JPG
By HANSHIITI PHOTO Co.,Ltd. - Masterpieces of Japan Arts Vol 5th, TOHTO BUNKA KOEKI Co.,Ltd. Tokyo, 1953-09-30, パブリック・ドメイン, Link

 

根津美術館

特別展
光琳と乾山
芸術家兄弟・響き合う美意識
2018年4月14日(土)~5月13日(日)

とも、響き合ってしまいますね。

www.nezu-muse.or.jp

第4章 つながるモチーフ/イメージ

テーマ9 ①松林5/6までなので急げ!

長谷川等伯の松林図屏風が出ている。やっぱこれ好き。

Hasegawa Tohaku - Pine Trees (Shōrin-zu byōbu) - right hand screen.jpg
By Emuseum, パブリック・ドメイン, Link

Hasegawa Tohaku - Pine Trees (Shōrin-zu byōbu) - left hand screen.jpg
By Emuseum, パブリック・ドメイン, Link

照明の色温度が、前に見た時よりも低くてあったかみがあったのは、ちと面白かった。色温度は高い方が、壮絶な雪の中の松林っぽくて好きだ

もちろん、他の松林との流れも良いのですが、個人的には突出してこれが好き。

流れについては、トーハクブログの以下の記事参照。

www.tnm.jp

 

見返り美人、切手じゃなくて本物は初めて見た。美しいなあ。菱川師宣

Beauty looking back.jpg
By Tokyo National Museum, パブリック・ドメイン, Link

 

www.tnm.jp

 

ノーマン・ジュイソン『ザ・ハリケーン』(1999)

1966年に、無実の罪で20年投獄された実在のルービン・カーター事件を元にした映画。


The Hurricane - Trailer - HQ

 

主演のデンゼル・ワシントンゴールデングローブ賞受賞。オスカーはノミネートされたが逃している。

デンゼル・ワシントンは『マルコムX』(1992年)にも主演している。マルコムXは1965年に暗殺されている。時代的には公民権運動が吹き荒れている時代で、血なまぐさい米国だった。

とはいえ、人種差別をする白人は悪で、それと戦う英雄譚、ではない。

ルービンを冤罪と戦う完全無欠のヒーローとして書いているわけでもない。彼は、「頑張る」と「諦める」の間を揺れ動く人物として描かれている。

また、白人を敵視しているものでもない。史実として彼と共にたたかった白人たちの物語でもある。

ルービンカーター事件

冤罪ではないかという話は、かなりされていたようで、芸能人たちも含み、再審運動がされていた。Bob Dylanの曲もあったりする。


HURRICANE Lyric - Bob Dylan

とはいえ、再審は長い間されて来ず、人もだんだん離れていった。

普通ならこれで終わりだ。

しかし、縁もゆかりもないカナダ人が、ルービンの伝記(The sixteen round/ 1974) を読んで感銘を受け、「ハリケーン」と交流を持ち、冤罪の証拠を見つけて、1988年に再審を勝ち取るのだ。これが史実というのが、なかなか興味深い。

映画として

一部、史実にあるカナダ人の釈放運動が描かれなかったり、あくまでも有罪を主張する、映画的に見ると差別主義者が、生身の警官として描かれたりしたりと、映画的な脚色ももちろんある。

正直、今から見て、自分が差別しなかったかと言われると、わからない。

自分の真実を感じ、正義として暴走する白人警官は、なぜ素行が悪く必ず罪を犯すpublic enemy を野に放つのかと、泣くのだろうなと思う。正義の邪悪な面がそこにはあって、その居心地の悪さこそ、この映画から一番感じ取るべきことではないかと、私は思っている。

もちろん、途中諦めかけながらも、支えられてなんとか勝ち取るカーターの精神力や誇り、ひょんなことから本を読んだことがきっかけで彼の再審を勝ち取るように生きていったレズラのひたむきさとかは、映画の表のメロディとして大事なポイントではあるんだけど。

そういう意味で、あまり爽快にすっきりとする映画ではないが、この映画を鏡として自分を振り返るのはいいかもしれない。

 

 

 

こいのぼりなう! 須藤玲子×アドリアン・ガルデール×齋藤精一によるインスタレーション @国立新美術館

こいのぼりの日!

 

白い鯉のぼりが、いろんな色をつけながら部屋を回遊し、黒くなってどこかに飛び去って行くというようなもの。世の汚さをつけたとか変な深読みはせず、いろんな色の鯉のぼりがいて楽しいな、と言う感じで楽しみました。

無料だし、鯉のぼりの季節なので、人をダメにする椅子に座りながらのんびりと空を見上げるってのがいいんじゃないだろうか。 

こんな感じで、いろんな鯉のぼりが泳いでいる。

ただ見上げるのもよし、鯉と一緒に歩いて回るもよし。

 

私は鯉と一緒に泳ぐ派だったので、こんな感じの写真になりました。

f:id:nimben:20180420152609j:plain

f:id:nimben:20180420152643j:plain

f:id:nimben:20180420152746j:plain

f:id:nimben:20180420152801j:plain

f:id:nimben:20180420152554j:plain

f:id:nimben:20180420152851j:plain

f:id:nimben:20180420152502j:plain

 

あえてインスタグラムには投稿しないw

www.youtube.com

こいのぼりなう! 須藤玲子×アドリアン・ガルデール×齋藤精一によるインスタレーション|企画展|展覧会|国立新美術館 THE NATIONAL ART CENTER, TOKYO

 

至上の印象派展 ビュールレ・コレクション (3/3) ファン・ゴッホなど @国立新美術館

そのほかで気に入ったのは、3点。 

ファンゴッホ: 日没を背に種まく人 / The Sower with Setting Sun / 1888

Vincent Willem van Gogh 024.jpg
By The Yorck Project: 10.000 Meisterwerke der Malerei. DVD-ROM, 2002. ISBN 3936122202. Distributed by DIRECTMEDIA Publishing GmbH., パブリック・ドメイン, Link

ドイツ語のvonとは違って、vanって名字の一部だから、ゴッホじゃなくてファン・ゴッホというのが正しいということを今回初めて知った。お恥ずかしい。

 

しかしファン・ゴッホ好きの人の気持ちが、だんだんわかってきた。

これも写真とかじゃわからなくって、あのうねうねとした浮き彫りのような筆使いコミの絵だと言うことが、生で見て初めてわかってくる。

なんか、生命力なんだよね。

是非に生でご覧くださいませ。

ポール・シニャック「ジュデッカ運河、ヴェネツィア、朝(サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂)」 / Paul Signac "Canal della Giudecca, Venice, Morning (Santa Maria della Salute)", 1905

public domainの画像ファイルがなかったので、似たやつを。

原題の表記は見つけられなかった

 

painting
By repro from artbook, パブリック・ドメイン, Link

 

今回来ているのは、こちら。

東京新聞:全64作品紹介 至上の印象派展(30) ポール・シニャック「ジュデッカ運河、ヴェネツィア、朝(サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂)」:至上の印象派展 ビュールレ・コレクション:イベント情報(TOKYO Web)

 

シニャックって全然知らなかったのだけど、この明るさは素晴らしい。

朝起きたばかりで、靄がかかっているが、日が昇って、今日も一日明るい日が始まるぞ、という直前の静謐さを感じます。よく私は「ドラクロアとか好き」というと「真っ黒なのが好きなのね」とちょっと笑われることがあるのだけど、いやいや、こういう明るいのも大好きですよ。 

印象派の流れを、ちょっと人で見てみよう

ターナーがモネやルノワールよりも60年ほど前の人というのは知らなかった。なんとなく印象派と同じくらいかと思っていたが、随分違う。

自分の感覚的には、ターナーと『オフィーリア』(1852年) を描いたジョン・エヴァレット・ミレーも同世代かと思っていた。同じテートブリテンに収蔵されているし。(これはビュールレ・コレクションではございません)ミレーは1829年生まれなので、モネやルノワールの約10歳年長。

John Everett Millais - Ophelia - Google Art Project.jpg
By ジョン・エヴァレット・ミレー - -wGU6cT4JixtPA at Google Cultural Institute, zoom level maximum Tate Images (http://www.tate-images.com/results.asp?image=N01506&wwwflag=3&imagepos=2), パブリック・ドメイン, Link

wikipediaによると

ミレーは少女画を描くにあたって「ただ、微妙で静かな表情のみが完璧な美と両立する[1]。誰が見ても美しい顔を描くなら、人格が形成され表情が決まる前の8歳前後の少女が一番よい」と語っている。

[1] 高橋裕子 「イギリス美術」

とのことなので、『可愛いイレーヌ』が8歳だったのと、何か関連があったかも、ですね。 

脱線した。

『可愛いイレーヌ』が1880年明治13年。ちなみに日清戦争明治27年)なので、この時の年齢は

こうやってみると、ほぼ年齢というか世代で流行り廃りがある感じですね。

 

おまけ:

www.youtube.com

www.youtube.com