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見たものと、読んだもの

内田樹『最終講義』(技術評論社)

内田樹は語り口がいい。読んでいること自体が快楽のような。書かれているトピックにおいて、一瞬、自分がえらくなったような、快刀乱麻な整理が行われるのが心地よい。それは良質な詐欺師映画をみている感じに近い。

最終講義?生き延びるための六講 (生きる技術!叢書)

最終講義?生き延びるための六講 (生きる技術!叢書)

2011年3月で教員を定年退職なさるということで、色んなところで行われた6回の最終講義をまとめたのが、この本。とはいえ、通読するために、フランス文学的なとか、ユダヤ学会的な、何か前提となる知識が必要なものではない。それを詳細に説明するという理路はつくそうとしていない。別の何かを伝えるための、マクラにすぎない。

で、その「伝えたい別の何か」とは、たぶん、定義されていない。言外から行間から、勝手に学べというスタンスであるといってよい。身勝手に聞こえるかも知れないが、これには著者はかなり確信犯的。「神髄はこれである」といった瞬間に、学ぶものはそれを超えるものを学べないということに自覚的であるが故なのだろう。

だから「はぐらかされた」とおもったとしたら、読者の負け。「何かあるかも知れない」と読者がおもったら、著者の勝ち。そういうメタな勝負を挑まれる感じは、たのしい。小学生の頃に、不良な叔父にからかわれるような愉しさとでもいうか。

自分の心の状態を知るベンチマークとしていいかもしれないよ。腹が立ったら、余裕がなくなっている位に考えるとおもしろいかも。

ということで、もしかして振り回されているのが好きなのか、というちょっとMっけがあるひとにオススメ。

しかし、なんでこんな文系な本を技術評論社が出すのかと思ったら、「リベラルアーツ」なくくりで2011年6月にはじまった「生きる技術!叢書」シリーズらしい。