デビッド・リーン『アラビアのロレンス』1962

砂漠の絵がきれい。とにかくきれい。これを見るだけでも価値あり! 神の慈悲も無慈悲も、この酷薄の太陽の下で繰り広げられる脇役に過ぎないかもしれない。公開時に映画館で見たかったねぇ。

内容は、全ては神のままに(it is written) という現状への諦めと、運命は変えられる(Nothing is written)というロレンスの信念と、その二つの間で翻弄されるロレンスの物語。

 ほとんど海外旅行をしているのかというレベルの高解像度の砂漠の光景。フィルムの凄さだねえ。デジタルリマスターに耐えるのがすごくよい。私の主観だが、ほぼ人間の目と同じ深い被写界深度。遠くにある小さいゴミみたいな黒い点が、人とわかり、徐々に近づいていく不安感を示す。あまりカットを割らない強さなのかも知れない。

 
そんなシーンがたくさんあるし、総上映時間も207分という大作なので、冗長に感じることが結構あるのは、時代のせいか。
 
実在のロレンスを下敷きにしている。神の視点で描かれているが、描いてある元はロレンス視点でなので、下敷きが誇大なのか本当なのかは、正直わからない。まあそこは、映画というフィクションとして見たいかな。今のパレスチナ問題の根源とも言える話なので、見方によって色々な事実がありそうだから。
 
わたしが『アラビアのロレンス』をしったのは、80年代。ポスターが最初。砂漠のなかにアラビア服を着たロレンスが、拳銃かシャムシールをかざして、というシーンだったとおもう。ググってみたが、それらしいのは見つからないので、記憶で改変があったかもしれない。絵の雄大さに感動したのを覚えているが、同時に上映時間を聞いて萎えた覚えがある(笑)
そのあと、成田美名子のマンガで知った。タイトルは忘れた。なぜ主人公がそのシーンを印象に残っているシーンとして挙げたのかの理由も覚えていないのだが、whyは記憶の片隅に残り続けた。
そういう個人史の流れのなかで、ようやっとチャンスがあってみることができたのだった。
 
 
 
 
さて、ここからは完全にネタバレしまくりです。
 

 

ロレンスというキャラクター

 
ロレンスは英雄として描かれているわけではない。描かれている瞬間があるとすれば、ガシムを助けに行って、アラブの服をもらうシーン。もうちょいいって、アカバ攻略までだろう。それからは悩み壊れていく姿てあって、とても英雄とは思えない。
 
そもそも今作で描かれているロレンスは、どう表現していいのかよくわからない性格をしている。時系列で一番古い描写の時は、うらなり・青びょうたん的な、軍人らしからぬ所作。かといって決断して動く時は、雄々しい。振れ幅が大きい。
 
以前から萌芽はあるが、ダルアの事件からのロレンスは虐殺者・無能な統治者としての面も見えるようになる。前半の、部族でなく汎アラブの旗の下に集う大義、という若者の前進とは別の、汎アラブは容易には成立しないという苦い終わり方を迎える。
時代も風習も違うとはいえ、オスマントルコ軍の列車を襲った後で略奪を繰り返し、それを是とするのは、いゃ〜な感じがする。無邪気さがむかつくというか。
このように、簡単に感情を移入させてくれない。
 

名脇役、アリ

感情移入させてくれるのは、オマー・シャリフ演じるハリト族のシャリーフ・アリだ。ほぼ全編、ロレンスといる。登場シーンから、別れに至るまでかっこいい。
ロレンスとアリの関係は、ある意味、『ロード・オブ・ザ・リング』のフロドとサムの関係に近い。アラブの大義に酔うロレンス(フロド)と、友情を貫くアリ(サム)的な。すごくいい関係のはずなのにアリは報われなくて泣ける。
泣いてくれる友がいてよかったな、ロレンス。それまでの君の壊れ方は見ていられなかったよ。

 

文庫 新版 指輪物語 全10巻セット (評論社文庫)

文庫 新版 指輪物語 全10巻セット (評論社文庫)

 

 (二つ選択すると二つとも出てくるのか)

個人史への蛇足

話が最初に戻るのだけど、やはり絵がすごい。
このころのハリウッド大作は、もちろんCGどころかVFXもほとんどない。砂漠の中をラクダと馬で100騎以上で駆け足をし、砂埃舞い上がるなんてのを全部ロケな訳でしょう。迫力がものすごい。
 
砂漠のシーンの美しさって、『スターウオーズ』の元ネタなのかな、という感じもした。撮って映えるバリエーションがそんなにないからかも知れないけど。
 
成田美名子のコミックの主人公が印象に残っていると言ったシーンは、ガシムを処刑した時気持ちがよかったと将軍に告白するシーン。今回通してみたが、わたしにはロレンスが自身のなかの残虐さを自覚してしまい、それが本来はひととして許されるべきではない嗜好であることに気づき、苦悩しているというようにおもった。