久しぶりに原稿を書くつもりが、東畑開人『野の医者は笑う 心の治療とは何か?』(誠信書房)を読み始めたらどうにも止まらず、一気読みしてしまった。今年読んだノンフィクションでまちがいなくベスト3に入る本。http://t.co/enemx69jzM
— 高野秀行 (@daruma1021) 2015年9月26日
ぼくが小学生だったことは、科学とムーとユリゲラーとノストラダムスが全部ぐちゃぐちゃしていたので、こういううさんくさいものは大好きなのである。
沖縄の「野の医者」は何をしているのかをまとめたノンフィクションがこの本だ。「野の医者」とは、精神科医、臨床心理士といったアカデミックなところ出自ではなく、心が傷付いたひとを癒すものたちだ。それは、ユタなどの沖縄の昔からのシャーマン的なものもあれば、ニューエイジ的なものもあれば、といろいろチャンプルーされている。
この本が面白い理由は、そこに臨床心理士である著者がアカデミック視点で観察をしてまとめたというものでは「ない」ところだ。
著者は、自身を当事者として彼らと接する。クライアントとしてセラピーを受け、研究者としてインタビューをし、という重層的なかかわりかたをする。
最初は、どかーんと当事者として参加し、様々なクラスタを整理していくなかで、相対的なメタ的な視点にたどりつく。たとえば、
野の医者の基本信念である「考え方が変われば、世界が変わる」という発想は、実は宗教由来だ。
こういうのは知らなかった。
コーチングなどに、論理的には意味はわかるけど、感情的になんか胡散臭いと感じていたのは、このためだったか。
ビジネス書の皮を被った自己啓発本、の皮を被ったNew Thought本は、数限りなくでているので、読めば読むほどわけがわからなくなっていくのだが、こういう相対化がされていると、とてもわかる。
こういう整理の仕方をするからといって、距離をとりながら冷ややかに観察をしているわけではない。おもしろがっている。同じところに立ってシェアをしつつ話をしている感じ。そして、その語り口も面白いし。
そして、なんと、このノンフィクションは、こういうのがあるんですよという紹介で終わるのではない。きちんと整理されたのちに、臨床心理とはなんだろうかということに対して、一つの結論を得るのである。
点が線に、線が面に、面が立体になるのをみせられているような、そんな豊かな読書体験だった。