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佐々木忠次『闘うバレエ』文春文庫

東京バレエ団創始者の佐々木忠次の自伝

表紙はギエム。

闘うバレエ―素顔のスターとカンパニーの物語 (文春文庫)

闘うバレエ―素顔のスターとカンパニーの物語 (文春文庫)

 

戦後から今まで、日本のバレエはこうやって豊かになっていったのだなという歴史を読むもよし、ササチューの興行師としてのプライドの物語として読むもよし、もちろんあまた出てくるスターたちのこぼれ話を楽しむもよし、というバレエファン必読本。

 

やはり戦後直後のぺったんこになっていたころからものを立ち上げた人の自伝は力強い。自分が意識したときにはすでに大スターだったひとが、まだよちよちしていた時代の描写があったりと。ミーシャの亡命の片棒を担ぐ羽目になったかもしれない話とか。

でもたぶん一番書きたかったことは、ひどい環境だったバレエ界で、戦って戦って興行として自分が見るに足るバレエ団を作り上げた自負だったのだとおもう。

「更衣室のスイッチの塗装がはげたから、全館の塗り直しをするので金をよこせ」という立ち上げ期の話とか、チケットは売れているのに観客席がガラガラで、なぜかしらべたらパトロン的にチケットを買ってくれたひとはパトロン気分で「チケットを買ってやっただけではあきたらず、バレエ観劇に時間まで使えというのか」と逆ギレされるとか、地方に行くと、その地方のバレエ団/教室関係者が生徒と親を人質にとって、公演を見せないようにするだとか。

たぶん書いていないだけで、もっと色々あったのだろうな。

でも、観客の前でダンサーを踊らせて、観客が喜び、その喜びをえてダンサーが鍛えられるという、バレエの質を上げるためには、興行として成功しなければならないという意志が行間の全てから感じられる。

だから、上記の妬みや勘違いで客足を止めるような慣習には怒るし、国が変に助成金をだして価格破壊をすることで通常の公演が高すぎるようにみえてしまった客足が止まることを憎む。

バレエの質をあげるために、冷戦時代でもソ連から講師を呼ぶし、ベジャールを振付家としてゲストではなくほとんどホストくらいの勢いで関係を築くし、日本だけでなく海外でどんどん公演をする。スペイン公演のツアーでひとがバタバタ倒れてまた復活するの描写は、ほとんどゾンビ映画かというくらいすごすぎて引きつり笑いがでる。

紹介されている写真もとてもきれいで、ダンサーの飛ぶ高さも手足の角度もぴったり一致している様は、まさにアンサンブルだった。

ササチューのことはこの本でしかしらないが、きっと敵も多いのだろう。この本だけで判断することはするまい。しかし、すくなくとも彼がなしたよきことは、ものすごく巨大なものだったということはわかった。