文の芸とはこういうことをいうのかと戦慄してしまった。
内容は、タイトルの通り「コンビニ人間」としかいいようがない。
最初は、ここから始まる何か爽やかな物語なのかなとおもった。
それくらい、読みやすくリズムのある「ふつう」の文章だ。
しかし、蛹の皮をむくと中がどろどろの白い液体であるということをみてしまうような、不定形の気持ち悪さがでてくる。
その不定形の気持ち悪さは、主人公の中身かもしれないし、主人公がわからないといっている「ふつう」の社会のことなのかもしれないと気づかされていくところ。
コンビニの「声」が聞こえることは、序盤ではコンビニ仕事人間としての鍛え上げられた仕事力のように思える。
中盤ではその声しか聞けない、中身が何にもない、人に擬態した何かのように思えて、ホラー小説のようである。
終盤で、その声によって「社会の一部品」として社会に復帰する様子は、「これは異常だ」と「これで正常だ」の両方を同時に味あわせてくれる。
しかしなんだろうな、この本の批評性は、これが「文藝春秋」という、昔のフォーマットのままにかたまった文芸誌の中に掲載されているということかもしれない。
学生時代は自分が若いからこういう雑誌はわからないだろうと思っていたのだが、年を取ってもわからない。年代というより世代にむけたものなんだろう。
しかし、では誰がこれを読んでいるのか。70代?
なんとなくそっちのほうが恐怖な感じがする。
当たり前に住まう自分って、とってもホラーだ。