cafe de nimben

見たものと、読んだもの

NHKミュージックポートレイト『小室哲哉 vs 浦沢直樹』

NHKには文句がある。公式のWebをすぐに消すのはやめてほしい。昔みたいに一回流れたらおしまい、というのなら話はわからなくはない。しかしNHKオンデマンドなど、過去の番組にアクセスして課金する商売をするなら、消さないでほしい。アーカイブとして掲載し続けてはもらえないものか。

 

というのはともかく。小室哲哉の話も、浦沢直樹の話も、個別にはいろいろ知っているので、新発見というものはあまりなかった。しかし、そこに自分が影響を受けた音楽があるとなると、切り口は当然異なるし、音楽の力で、疑似体験をするという強さもあった。

 

とくに、浦沢直樹の、"Like a rolling stone"と「もういちど教えてほしい」には、うるっときた。また、そういう編集の仕方をNHKはしていたとおもう。歌詞も英語と和訳の両方を載せ、浦沢の心情に寄せていた。

 

vimeo.com

これを傲慢だった自分への戒めの曲として聞くというのは、すごいことだとおもう。

ふつうは、誰かが堕ちていったことをざまあみろ、というようにおもうか、もう一歩進んでも、「転石苔生さず」で、諸行無常的な抽象的なところにいくのだろうとおもう。

具体的に自分のこととするのは、気づけないし、気づけても認めるのもそうとう骨がおれる。今更真面目に見たけど、いやあ、だってすごいよ、この歌詞。


"Like A Rolling Stone" (1965)


Once upon a time you dressed so fine

Threw the bums a dime in your prime, didn't you ?
People'd call, say, "Beware doll, you're bound to fall"
You thought they were all a’kiddin' you
You used to laugh about
Everybody that was hangin' out
Now you don't talk so loud
Now you don't seem so proud
About having to be scrounging your next meal
How does it feel ?
How does it feel ?
To be without a home ?
Like a complete unknown ?
Like a rolling stone ?

 

むかしはいい服着てさ

乞食に10円玉放ってたよな

みんながいってたさ

「お嬢ちゃん、気ぃつけないと、転ぶぜ」って

みんなにからかわれてるとおもってたろうね

むかしは嗤っていたろ

そこらへんでうろちょろしてるやつらをさ

今じゃ、ぼそぼそしゃべって

今じゃ、おどおどしてて

つぎの飯をどこで食べられるかもわかりゃしない

なあ、どんな気持ち?

なあ、どんな気持ちだ?

帰る家もねぇよな?

誰もあんたのことなんて知らない、みたいな?

そのへんの転がる石っころ、みたいな?

(拙訳)

 

これ、自分が責められている(責めず、逆に感情をはずして淡々と事実を述べられてもそれは怖いけど)として聞いたら、この1番だけでも死ねるけどね。

 

Bruce Springsteenの "Glory Days"(1984) も容赦ないと思ったが、その比じゃないね。


Bruce Springsteen - Glory Days

#こちらのほうは、同じく諸行無常なんだけど、もうちょっと明るさがある

 

自分への諌めだと言い切る浦沢の、自分を突き放す、漫画家としてのすごみを見た感じだ。

 

そして浦沢直樹が10曲め、最後にあげた曲。平成ガメラ三部作の第3話『ガメラ3 邪神<イリス>覚醒』(1999) のエンディングテーマ。『もういちど教えてほしい』ユリアーナ・シャノー

ネタバレなしに書けないので、ここから隠す。

"Pluto"で、手塚のアトムのリメイクをするという壮絶なプレッシャーと、長年の体の故障がいっしょになって、いちど壊れたとき、そしてそこから立ち上がるときに浦沢が聞いた曲。そしてそれは、ガメラの最後のシーンとそこに流れるこのエンディングテーマ、というセットでないといけない。

まあ、エンディング直前に敵を倒すガメラ。満身創痍。敵の断末魔で、空を覆い尽くす敵の軍団がやってくる。そこに、浦沢曰く「じゃ、行くね!」という感じでガメラが戦いに行くというエンディング。

もういちど出来るなら ここにもどってあの姿を
こころの翼が 折れて傷つき 嵐が来ても 空へ飛んでゆく

 

 ここが、浦沢の琴線にふれたのだろうね。

むかしは、ダメなときがあっても、だからこそ復活していくという主人公に感情移入ができたのだけど、いまは、ダメなときはダメなんだとおもわざるをえないと考えるようになってしまった。

だからこそ、これに感情移入できる浦沢って(私よりも年上なのに)すごいなあと尊敬する。