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国立新美術館開館10周年 チェコ文化年事業 『ミュシャ展』国立新美術館

arts

おめあては、『スラブ叙事詩』の19点の作品群。ひとつの大きさが木造二階建ての一戸建ての大きさだと思えばいい。これは生の迫力をみるに限りますので、おすすめです。

www.mucha2017.jp

ミュシャ展|企画展|展示会|国立新美術館 THE NATIONAL ART CENTER, TOKYO

 

展示構成

二部構成。

チェコ国外では世界初の『スラブ叙事詩』20点がいきなり展示されている前半。歌でいうといきなりサビから始まる感じ。 

その圧巻を越えた先に、いわゆる『ミュシャ様式』のポスターやリトグラフが並んでいる後半。

だが、実際は19世紀末にパリでグラフィックデザイナーとしてアールヌーボー(art nouveau)にも大きな影響を与えた時代の最先端を行くアルフォンス・ミュシャは後者の時代であり、財政的に安定したところで汎スラブ民族主義の神話を描き連ねるが時代遅れともいわれてしまう後半生が前半で展示されていることになる。

絵柄が前半と後半ではかなり違うので、このふたつをつなぐために、11分のNHKエデュケーショなる作成の紹介動画が、展示会場内でループ再生されているから、これは場内で見ておいたほうが混乱しないとおもいます。ぼくは混乱したので。

前半:スラブ叙事詩

大きさの迫力

構成は、いきなりハイライト『スラブ叙事詩』20点が並んでいるという、歌でいうといきなりサビから始まる感じ。感覚はほぼ住宅展示場。最大のものが、高さ6.1 x 幅8.1 m。だいたい木造2階の一戸建てをみるような大きさ。以下の設置タイムラプスで大きさの感じをご覧くださいませ。

www.youtube.com

この大きさのものは、どんなに図版できれいに撮影されているものをもっていても、大きさ自体が持つ迫力がちがうから、生でみるに限る。

また、絵としては遠くから眺めるようにみるのがよかった。近くで細かく見てもかえって何が描いてあるのかわからなくなってしまった。おもいっきり引きの絵でみると、くっきりと見えてくる感じ。

例をあげよう。『クロアチアの司令官ズリンスキーによるシゲットの防衛 — キリスト教世界の盾』 

Mucha defense of Szigetvar.jpg
By アルフォンス・ミュシャ - Internet, パブリック・ドメイン, Link

おそらくこの図だと彩度とコントラストを上げているのでちょっとわかりやすくなっている。現場で見る限りはもうちょっとぼんやりしている。あと、全体的にもっと赤い。となると、誰がこの火薬庫に火をつけて、自爆的にトルコ軍を撃退しているのか、近くから見てもよくわからないのだ。

細部が描かれているかといって細部を目を凝らしてみるのももちろんよいのだが、もっとこの死の三秒前のような禍々しさを感じるほうが、いいような気がした。

なので、反対側の絵の前からくらい引いてご覧になることをお勧めしたいです。

ちなみに近くで見たり遠くで見たりと、好みの差が閲覧者にもたくさんあろうとおもうので、ちょっと空いている間にみたほうがいいかも。毎秒数センチで一方通行でみないといけない激混み状態だとこの展示はみても何が何だかわからなくなる気がするので。

光と影

絶妙なのは、一つの絵の中での光と影のコントラストだとおもう。スポットライトの当て方がすばらしい。

1.故郷のスラヴ人 1912年、610×810cm

Slovane v pravlasti 81x61m.jpg
By アルフォンス・ミュシャ - http://russianculture.files.wordpress.com/2010/12/slovane_v_pravlasti_81x61m.jpg, パブリック・ドメイン, Link

真ん中左側の赤い色は焼かれている村の色、その右には追撃してくる武装した蛮人、中央下段にスポットライトを浴びているスラブの民の夫婦、そして右上段に当時のスラブの神々とおもわれる超越的な存在が描かれている。あからさまといってよいほどの視線誘導。

3. 大ボヘミアへのスラブ式典礼の導入 1912年、610×810cm

自然光による人間の描き方と、超越者ないし概念の擬人化は青くも逆光にもみえるようなファンタジックな描き方をしている。

Zavedeni slovanske liturgie na velke morave.jpg
By アルフォンス・ミュシャ - http://russianculture.files.wordpress.com/2010/12/zavedeni_slovanske_liturgie_na_velke_morave_81x61m.jpg, パブリック・ドメイン, Link

スラブの民の団結を示す下段左の輪をもった若者は、前後でいうと一番手前にいて逆光になって顔も見えづらいという描き方だ。対して地上の人間は昼白色の暖かい光のなかにいる。

このようなグラフィックデザイン的な視点からの仕掛けが随所にある。意図の罠にはまるもよし、意図をさぐりに入るもよし、なんかいくらでも見ていられる感じがある。

スラブ叙事詩の展示順

概ね神話的な順番通りなのだが、「言葉の魔法」三部作はまとめて一つの壁面に並べられている。

7. クロミエジーシュ市のヤン・ミリーチュ 1916年、620×405cm
9. ベツレヘム礼拝堂でのヤン・フスの説教 1916年、610×810cm
10. クジージュキの集会について 1916年、620×405cm

このみっつはほぼ高さが約6mとほぼいっしょで、巾は、7番10番が約4mでいっしょ、9番がその倍の約8m。

中央ヨーロッパの歴史を全くと言っていいほど知らないので、フスという人の立ち位置をしらなかった。いやあ、「フス戦争」という名がつく反フス派十字軍の戦争(計5回の十字軍出兵。第一回が1420年。第五回が1431年)があったことすら知らなかったので。ちなみに日本だと、室町時代で将軍は4代目足利義持。1397年に金閣寺建立、1428年にくじ引きで足利義教が第六代将軍になる。1467年に応仁の乱、という時代。

好みの問題

個人的には、1-3番

故郷のスラヴ人 — トゥラン人の鞭とゴート族の剣の間で

ルヤナ島のスヴァントヴィト祭 — 神々が戦う時、救いは芸術にある

ボヘミアにおけるスラヴ的典礼の導入 — 母国語で神をたたえよ

が好みでした。

何かね、順番は逆だとわかっているのだけど、加藤直之、生頼範義山田章博あたりの絵と近いものを感じる。影響を受けたってことなんだろうけど。神話的に汎スラブ民族主義的に描く叙事詩だから、space operaちっくに今からだとみえるからだろうか。

寓話的な象徴するものをあれこれいれていって絵画自体にいろんな含みを持たせるということを否定するものではないのだが、なんだかお腹いっぱいになっちゃう感じがある。すごいのだけど、好みかというとんーどうしようかなと迷う感覚がある。なんかストレートにすごいだけで済ませたほうが幸せなんだろうなあ。なんかみぞみぞするんですよね。

 

後半:アールヌーボー

単純に綺麗とおもえるので、楽しいです。

しかしなんで堺市がたくさん持っているのかとおもったら、カメラのドイの土井さんのコレクションが堺市に寄贈されているんですね。堺市に行く機会があったら堺市立文化館アルフォンス・ミュシャ館にGoですね。

mucha.sakai-bunshin.com

ちなみにいまは空調設備などの工事で2017年6月30日まで休館中。ああ、たぶんそれで目玉展示物が全部この六本木に来ているのだな。

出世作である『ジスモンダ』のポスター

Alfons Mucha - 1894 - Gismonda.jpg
By アルフォンス・ミュシャ - Art Renewal Center, パブリック・ドメイン, Link

に始まって、四つの花、四芸術など。

個人的にはヒヤシンス姫が好き(展示品とは色味がちがいますが)

Mucha, Alfons - Prinzessin Hyazinthe - 1911.jpg
By Alphonse Mucha - http://www.hypo-kunsthalle.de/newweb/mucha.html, Public Domain, Link

ある意味単純に美しさや楽しさを感じればよいので、心の負担はすくなかったです。

生で見るとおもったよりも大きいね小さいねというのも感じられておもしろかったですし。

その他

地味に嬉しいふたつ。

ミュージアムショップはチケットなくても入れます。

図版はアマゾンでも買えます。(2017年3月19日現在、在庫切れですが。ミュージアムショップにはまだある模様)

ミュシャ展

ミュシャ展

 

 

いろいろいいたい放題いっていますが、これだけのコレクションを一気に見る機会は、今後ないとおもうので、是非この機会に。たぶんスラブ叙事詩を生で見ようと思ったら、生涯に数度レベルのチャンスではなかろうか。アールヌーボーのは堺市に行けばなんとかなりそうだけど。