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見たものと、読んだもの

早見和真『イノセント・デイズ』新潮文庫2017(底本2014新潮社)

「整形シンデレラの殺人」は冤罪ではないのか? しかし、「犯人」は無実の声を上げない。なぜ?

"Why Done It" に繋がる出来事を、章によって異なる主人公を通じて描写する、少しトリッキーな物語。

誰の何に感情移入するかによって、読後感は大きく変わると思われる。

イノセント・デイズ (新潮文庫)

イノセント・デイズ (新潮文庫)

 

 

ミスリーディングが面白い。しかしそれは「やられた」という爽快感を示すものかというと、なかなか複雑な苦さがある。

話は二部に別れる。

幸乃の生い立ちから事件前夜までを描く、第一部。

判決の後、点として描写された人々が繋がっていく、第二部。

第一部のドライバーは、冤罪事件ではないか、というミステリー。

幸乃の生い立ちを様々な人の目を借りて描く

読者が「彼女は犯人ではなさそうだ」→「真犯人は誰だ」ないし「何か決定的なものが彼女を変えたのか」という予想をし始める時、物語は別の様相を示す。

第二部で、読者と同じように彼女が犯人ではないと信じる人が、当事者として関わり始める。

通常の物語であれば、信じる人ができて、「頭の固い法廷やマスコミ」が認めざるを得ない冤罪の証拠が見つかり、全員ハッピーになって、嬉し涙が滲んで終わる。

そうはいかない。

どう「そうはいかない」かは書かないが、「イノセント・デイス」というのが、誰のどの時期のどういうことにかかっているかを考えながら再読すると、イノセントという言葉の表と裏の意味を考えると、より深く、苦く、振り返りたくない自分の若い日の後悔と共に浮かび上がるかもしれない。

WOWOWのドラマ版もあるようだが、未見。6回で納めるとするとどうやったのか、気になる。