cafe de nimben

見たものと、読んだもの

高浜寛「ニュクスの角灯」

第24回手塚治虫文化賞マンガ大賞作品。

全く初めて読む作家なのだが、第1巻丸ごとこちらで読める。読んでみて面白かったので、全6巻大人買いした。

to-ti.in

 

話がどこに行くのかわからない感じが、とても素敵。

1878年/明治11年の長崎、主人公である、ちょっと陰気で地味な美世が、怪しげな西洋雑貨販売店に奉公に出るところから始まる。

出島のある長崎は、江戸時代であっても外の空気が入ってくる街。出島、そして廓。

江戸の開国から海外にひらけた横浜とは違う、もうちょっと湿った開放感のある街として、長崎は描かれている。

実在の人物と架空の人物が、この人独自としかいえない様な混ざり方をしている。

なんとなく漫画というよりManga感も感じると思ったら、フランスでも人気の漫画家さんなんだそうだ。

歴史に名を残す有名人の青春譚ではなく、地に足のついた半径3mくらいの話が、丁寧に描かれていく。その広さと狭さの塩梅が、また心地いい。

キャラクターも、完璧な人は誰も出てこない。どの人にも、ダメで弱くて嫌なところがあり、けれどもそれはその人の良さと表裏一体になっている様な感じ。

今のCOVID-19で、正義の力に酔っている人がマサカリを投げ合っている様なのに疲れると、こういう、ダメなところも含めて暖かく描かれる作品を読むと、安心する。

 

 

眉月 じゅん『九龍ジェネリックロマンス』

今日まで全部無料で読める(第16話まで)

https://tonarinoyj.jp/episode/10834108156705514756

 

九龍という今は無き無法地帯で、ジェネリックというジェネリック医薬品の香りのする言葉に、ロマンスという言葉をつけるというタイトルに、心を奪われる。

ヒロインの鯨井令子の恋するいじましさがかわいい。

恋は雨上がりのように』の作者による、近未来?の香港の男女のラブストーリー?

「?」がついているのは、まだ語られていないからだ。連載のリアルタイムに追いつくいいチャンスなので、ぜひ読んでください。

16話まで来て、え、つまりこういう話? という想像がやっとできる様になったのだが、さて、はてさて、本当にそういくのかどうか、楽しみだ。

 

九龍って?

九龍城といえば、1993年まで、香港にあった治外法権の魔窟だ。1997年に香港は租借条約が切れて中国に戻るので、まだイギリス領だった時代のお話。

KWC - 1989 Aerial.jpg
Ian Lambot - http://cityofdarkness.co.uk/order-print/01-aerial-view/ Also found in the book City of Darkness - Life in Kowloon Walled City by Ian Lambot (ISBN 1-873200-13-7)., CC 表示-継承 4.0, リンクによる

 

香港なので元は中国、それからイギリス領なのだが、睨み合いの境界として、事実上どころか法令上もどちらの主権も及ばない珍しい場所になる。

宗の時代に軍事要塞として建てられたが、日本が香港を占領した1941年に城壁は取り壊され、バラックが建ち、スラム化が始まる。第二次世界大戦後、中華民国中華人民共和国にとって変わられるとき、その後も、60年代後半の文化大革命の時など、中国大陸から九龍に人が押し寄せる。

無法地帯で、アジアで、中国とイギリスの風味が混じり合うという、少なくとも外から見たら魅力的な街が出来上がった。絵的には『ブレードランナー』(1982)とか『攻殻機動隊』(1991)→『GHOST IN THE SHELL』(1995) を思い起こさせる。

KWC - Night.jpg
Ian Lambot - Ian Lambot. City of Darkness - Life in Kowloon Walled City (ISBN 1-873200-13-7). 1993., CC 表示-継承 4.0, リンクによる

 

メンテもされていないので、中はこんな感じ

KWC - Alley.jpg
Ian Lambot - http://cityofdarkness.co.uk/dark-alleys/dark-city-04-2/ Also found in the book City of Darkness - Life in Kowloon Walled City by Ian Lambot (ISBN 1-873200-13-7)., CC 表示 4.0, リンクによる

 

1997年に香港が中国に返還される時にきれいにして返すことになり、1993年から取り壊し工事が行われたため、現存しない。

なお、こちらのWebが、吉田一郎氏による壊される前の九龍の探検記となっているので、ご参照されたい。

 

web.archive.org

 

同様に、カナダの写真家による、九龍の写真など。

www.businessinsider.jp

 

芸術は、不要不急か?

前日の記事を書くために『彼方のアストラ』を再読していた。この作品では、9名の少年少女が宇宙の果てに飛ばされて、宇宙船で帰ってくるお話なのだが、この閉じ込められ方は、ロックダウンに似ている。そこで皆が病気になって気力も尽きようとしているときに、歌の力で癒されるという描写がある。

 

スティーブン・キングも言っている

 If you think artists are useless, try to spend your quarantine without music, books, poems, movies, and paintings.

もし芸術家に価値がないと思うなら、この検疫/隔離を、音楽、本、詩、映画や絵画なしで過ごそうとしてみればいい。

 

少なくとも私にとっては、COVID-19の苛立ちを煽る様な報道などを見て自分で自分を苦しめるよりも、それから離れて芸術に触れることが、心の拠り所になっている。

 

実際の博物館や美術館に行けないのはちょっと辛いけど、楽しめるものを楽しんでいきたい。

ラテン語の警句やことわざ

前々回の『アド・アストラ -スキピオハンニバル-』の題名のもとになる "Ad Astra Per Aspera" って見たことある気がすると思ったら、『彼方のアストラ』の第二話で、アストラ号の名前の由来になった言葉だった。

彼方のアストラ コミック 全5巻 セット

彼方のアストラ コミック 全5巻 セット

  • 発売日: 2018/02/02
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twitterか何かで知った、王道の宇宙SF少年漫画だ。 去年だったかな、アニメにもなったみたい。そちらは未見だが、これは面白いのでおすすめだ。伏線が色々回収されるので、感想はとても書きづらいので書いていないけど。

ちなみに、"Ad Astra Per Aspera" > 直訳 >  "to the stars through difficulties" > 「困難を越えて星へ」

ということで、映画をみていると、たまにラテン語の警句、格言、ことわざが出てくるので、ちょっとまとめてみたい。

「来た見た勝った/ Veni, Vidi, Vici」とか「賽は投げられた / Alea iacta est」はラテン語としてはあんまり使われない気がするので外した。

 

『いまを生きる』/ Dead Poet Society


"Carpe diem. Seize the day." - Dead Poets Society

もう亡くなってしまったロビン・ウイリアムス / Robin Williams が主演の1989年のアメリカ映画。オスカーの脚本賞受賞作品。

日本語題名の『いまを生きる』は、この中でロビン演じる教師が死せる詩人の会(=Dead Poet Society。英語の題名ですね)という同好会でいう言葉の一つ、"Seize the day" から来ている。これは、ラテン語の "Carpe Diem" からの英語直訳。日本語直訳だと、「詰め、今日の花を」

紀元前1世紀の古代ローマの詩人ホラティウスQuintus Horatius Flaccus の詩の一節。

Tu ne quaesieris, scire nefas, quem mihi, quem tibi
finem di dederint, Leuconoe, nec Babylonios
temptaris numeros. ut melius, quidquid erit pati,
seu pluris hiemes seu tribuit Iuppiter ultimam,
quae nunc oppositis debilitat pumicibus mare
Tyrrhenum: sapias, uina liques, et spatio breui
spem longam reseces. dum loquimur, fugerit inuida
aetas. carpe diem quam minimum credula postero.

ラテン語には不案内なので最後の一文が、元ネタ。意訳すると「まだ来てもいない明日のことに思い煩うことなく、今日この一日だけの花を摘むのだ」という感じ。

マインドフルネスの思想に似ている、というか元ネタ。ホラティウスエピクロスの快楽主義の影響にあると言われている。快楽主義と言っても、明日の辛いことは忘れて、今日はぱぁーっとやろうぜ、という意味ではない。アタラクシア/Ataraxiaという心の平穏があれば、外界の有象無象に影響されることなく生きていけるのだ、というお話。

日本だと禅とか清貧とか、なんかそういう感じ。古代ローマ人鎌倉時代禅宗が似たところにいるというのは、なかなか面白い。

ほぼ同じ意味で使われるのが "Nunc Est Bibendum" = now is the time to drink.同じくホラティウスの詩の一節。こっちは「いいから飲もうぜ」的なように感じてしまうけれど。

意味的には死生観にも繋がるので、Memento Mori / 死を思え になる。ほぼそのままのタイトルの映画といえば、クリストファー ・ノーランの出世作メメント』(2000)


🎥 MEMENTO (2000) | Full Movie Trailer in HD | 1080p

でもこれ、 メメントモリとはちょっと違う気もするんだけど。

 

似た様なことを過去に書いていたのを忘れていた(汗

nimben.hatenablog.com

 

 

汝平和を欲さば、戦への備えをせよ / Si Vis Pacem, Para Bellum

アクション映画が好きな人なら聞いたことがあるであろう、NATO軍の標準弾丸 9x19mm パラベラム弾の元ネタ。パラベラム弾って1901年の設計で、第一次世界大戦後主にヨーロッパ各国でパラベラム弾を使った銃が正式採用され始め、いまだに使われている。

1938年にドイツ国防軍の制式拳銃となった、というよりもルパン三世が使っていると言ったほうがいいのかな、ワルサーP.38が使っているのが、この弾丸。

もちろん他にも『007 Spectre』でジェームス・ボンドや『ダイハード』の2以降でもよく出てくるオーストリアグロック/Glock社の自動拳銃で使われる。

この "Si Vis Pacem, Para Bellum" という言葉のオリジナルは厳密には不明だが、AD4世紀ごろのローマ帝国軍事学者フラウィウス・ウェゲティウス・レナトゥス(Flavius Vegetius Renatus)の『軍事論』の一節とされる。

 

脱線:

しかし、NATOメートル法で、アメリカはマイル・インチ法なので、数字の意味が変わって面白いというか辛いというか。

9x19パラベラムといえば、口径9mm、薬莢長19mmのパラベラム弾と分かるが、例えばコルトガバメントの.45ACPと言われると、口径0.45インチ、薬莢長は書いていないが22.8mm、Automatic Colt Pistol (=ACP) と、比較するのに一手間かかる。ちなみにACPは元々の45口径コルトのレボルバーモデル用の32.6mmものを自動拳銃用に薬莢長を詰めた物。

メールなどで使う言葉

略語系でよく出てくるイメージ。よく使うのもあれば、ちょっと気取った様に思われるのもある。あと、数学の証明問題とか。

% = per cento (イタリア語 ) = per centum (ラテン語) = 100あたり = パーセント

これを知っていると、PPMはMは数だからMillionっぽいと推測できれば、100万分の1と分かる。(ちなみに Parts Per Millionだから、最初のPは難しい)

ちなみに、アメックスのカードに影絵出てくるのは百人隊長。英語でCenturion(センチュリオン)、ラテン語でケントゥリオ/ Centurio。ローマ軍のひとつの単位百人隊(実際にはばらつきがあるが80名程度)の指揮官である。百をHundredとだけ理解しているとわかりづらいがラテン語で100をCentumと知っていると、世紀Centuryもこの仲間だなとか分かるので、知っておくと便利。

CV =curriculum vitae = resume = 履歴書

VS = Versus = 対 

e.g. = exempli gratia = for example = 例えば

i.e. = id est = That is = すなわち 

etc = et cetera = and so forth = その他。エトセトラ。

Curriculum vitaeと発音している人は聞いたことはない。egもieも同様。基本的に書き言葉の話ですね。

 

vice versa = with position turned = 逆もまた同様に

de facto = by deed = the way things really are = デファクト、事実上の

この二つは、言いもし、書きもする。割とよく使われる。

ちなみに「デファクトスタンダード / 事実上の標準」があるのなら、事実上でない標準ってあるのか、といえば、あります。あんまり使われないけれど "de jure / デジュレないしデジュール" という「法令上の」という言い方がある。例えば、こんな感じ。

If Japan chose to legally establish English as the de jure national language, English could be the language used nationwide, especially for governmental environments, but the de facto national language would remain Japanese.

もし日本が英語を法制上の公用語にしたら、英語は日本中、特に政府系では使われる様になるが、事実上標準は日本語のままだろう。

普通は「標準」とだけ使えばいいので、あえて「法制上の」を付けないといけないとすると、それが空文になったときというのが行間に出てしまいますね。

 

ちなみに、英語の手紙の文末につけるRSVPはRépondez s'il vous plaît = Response if you please = お返事願いますなので、ラテン語ではありません。

 

どっとはらい。 

 

 

久しぶりの『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』

ヱヴァンゲリヲン新劇場版序破Qが、YouTubeで五月三日までの期間限定無料公開をやっていたので、久々に見る。最終話となるはずの物が今年六月に公開予定(コロナのせいで未定になった)だったので、そのプロモーションの一環なんだろうなと思う。

面白かったのは、日本語字幕版も同時に公開されていること。早口だったり初見殺しで聞き取れない単語はたくさんあるから、これは親切だった。


【公式】ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q EVANGELION:3.33 YOU CAN (NOT) REDO.

序は、ほぼテレビ版通りで、映像がすごくきれいになったやつ。

破は、ファーストシーンから今まで出たことのないキャラが出てくるものの、大筋は同じのもの。

Qは、今までとは全く別の世界。破の最後についてくる予告編の映像は一切使われず、そのあとの世界。いわゆる0.5話みたいな感じで、作ってくれてもいいんやで?

 

Qが公開されたのは2012年で、もう8年も前のことになる。ゴッドファーザーの2と3が16年空いているので、その半分だと思えば長くない、のか?

 

久しぶりに見たが、映像はやはりきれいだ。3DCGと2Dの差はわかりにくいし、照明などもよく考えられていて、無駄がない。

Qは、劇場に見にいって、なんじゃこれと思って、次のものを見るまでは評価しないと思って封印していたのだ。考えとしては Back to the Futureの2の評価を3を見終わるまで待つという感じ。

で、Qは、前回と全く別方向の感想を持った。「シンジくんに誰も何もきちんと説明しようとしていないのは、流石にかわいそうでしょ」というコミュニケーションエラーに対する憤りだった。前回は、ポカンとしすぎて、そこまで細かいところに頭を回せていなかった。説明されない情報量がとても多かったので。

14年も立って、自分の半分くらいの歳の人に、まるっきり説明せずに「ガキ」というのは、ちょっと酷くないですかね。

あと、今まではループ物だよ、と言っている人がいるのは知っていたけど、今一つそういう感じでは見ていなかったのだが、ようやくその意味がわかった感じ。カオルくん視点だとループものっぽいよねぇ。

 

新作。正式には「:||」と書いてあって、リピートマークなので、また新しいループが始まるということなのか、どうしたいんでしょうね。


シン・エヴァンゲリオン劇場版 特報2

漫画版

ついでに、漫画版も読み返した。Kindleなのでいつ読んだのかが分かるのが面白い。前回は2014年だった。

 結末の説明の納得感は、テレビ版、旧劇版よりも大きいので、こちらもおすすめ。