なぜ「なろう」がそんなにバカにされるのか、よくわからなかった。ので、読んでみることにした。
考えられる嫌われる理由って、二つある。
一つは、表現が稚拙であること。
ま、これはありえる。編集者や校閲者のフィルタを通していないものが対象になる。びっくりするような誤字誤植という細かいところや、物理法則などをその物語世界の中で利用できる説明なく敵に不都合に自分に好都合にネジ曲がったりするという世界観的なものだったり。こういうのは私も好きではない。
二つ目は、「都合が良すぎる」ということ。
物語内人間関係やラッキーすぎる展開という意味で、「都合が良すぎる」というのは、それは語り口に対する好みによるかもしれない。それを言ったら、ハリウッドブロックバスター映画も、池波正太郎時代劇も見ることができない。そもそも現実から目を背けて別な世界に浸るのがフィクションなんだから。
ということは、「なろう」にも、私の好みの作品もそうでないのもあるってことだな。
ここ最近やたらとアニメ化される印象もある。やたらと取り上げられるということは、そろそろジャンルの終わりなのかもと思わなくはないが、どうなんだろうね。
ざっと読んでみた印象。
いわゆるゲームファンタシー由来が多い。古くはJRRトールキンの『指輪物語』以降にファンタシーは始まり、ここに数多のフォロワー作品とゲーム化メディア作品とそれを下敷きにしてという繰り返しの歴史の中で、ファンタシーの土壌ができあがっていると思う。
つまり、中世あるいは近世ヨーロッパに近い文明で、ゴブリン、エルフ、ドワーフなどの、ほぼ人間や、ドラゴン(中国の龍ではない)などがいるファンタシー世界。
言語はあまりジェネリックな感じはしない。トールキンの様に言語まで開発するというのはハードコアにすぎるが、その言語を話すにあたっては、それまでの1000年くらいの文化背景があるはず。ヨーロッパもドイツ風だったりフランス語風だったり、今一つどの言語系かははっきりした指針がないものが多い。
割と現代日本背景のもの、例えばバレンタインのチョコレートとかの風習があったりすることも多い。おそらく蔑称として「なーロッパ」という言い方もあるらしいことがわかった。
ゲーム的解釈の一般化
読者に求められる一般常識として、「自分には自分のレベルと得意とするスキルが見える」「そのスキルは経験値を積むことによって、レベルが上がる」がある。
これには戸惑った。
なぜなら、レベルが上がると逆にできなくなることがあったり、そもそも何に強いのか、どうしたいのか、何が自分に合っているかということがわからないのが人生だから。ゲームでは当たり前と私も思う。しかし、なんで小説でないといけないのかと突き詰めた時、ゲームではこぼれ落ちているその機微を書くというポイントって大事なないのかな、と思っていた。多分それは、私がこの読者ターゲットではないということなんだろうなあと思うので、しょうがないかも。
貴族
貴族は、差別主義の無能な敵か、正しく権力を使う味方か、のどちらかで描かれる。
特に異世界転生ものでは、その能力を持って生まれたが、大体は平民であり、能力がわかる味方と一緒に世界をよりよくするか、無能な差別主義者を滅ぼして世界をよりよくするかという二択のことが多い。異世界に行くということは、現代日本の知識をある程度持っていくことが多いから、多様性を当たり前の善とし、それを無知が踏み潰すことに対して、嫌悪感を持つ主人公が多い気がする。まあ、現代日本の感覚でいうと当たり前か。
男性主人公は割と草食。
ハーレム展開の場合も結構あるが、女性から慕われても割と押し戻す感じが多いかも。仲はいいが、恋仲になるかといえば、そうとも限らない。みんなとそれほど深くはないが、みんなときゃっきゃできている感じがいいというか、どちらかというと家族愛とか同族愛に近いというか。恋愛至上主義的な感じはないかな。恋愛の楽しさと毒の両方を、みたいなことはあんまりないかも。
もちろん思春期特有とも言える男にとっては無邪気な、女にとっては無邪気だからって許されるのかというボーダーあたりにある描写はどうなんかなあという気はする。まあ、現実では許されないのだから、ある意味、フィクションの中で何をやっても構わないと思うが。これは、そういう世代なんだろうねぇ。
ということで、ここからは、オススメ
https://ncode.syosetu.com/n9636x/
単行本版あり
コミカライズ版あり。
shogakukan.tameshiyo.me
後宮に少女が入れられて始まるファンタシー、というと酒見賢一『後宮小説』と思ったけど、薬を中心とする割とロジカルなミステリーと、主人公たちの人間関係ドラマという二軸のバランスがよい。
香月美夜『本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~』
なろう版:
https://ncode.syosetu.com/n4830bu/
Kindle版(unlimitedにも入っているので、お試しにはそちらがよいかも)
大学図書館に司書としての就職が決まったばかりの主人公が、地震で本に埋もれて死んだと思ったら、異世界にマインという名の5歳の女の子として一般市民に転生するところから始まる。この異世界でにはまだ一般に流通する本がないので、この世でも司書になるために、そもそも本を普及させるところから七転八倒して、という話なのだが、ストレートに実現するわけではない。ファンタシー世界の文化・文明発達と、魔法がどうくるのかなどを組み合わせた、世界観を楽しむお話。アニメ化もされた。
LV999の村人
https://ncode.syosetu.com/n7612ct/
異世界で、最弱のキャラクターである村人。普通はレベルをあげても10程度。モンスターを倒すとお金と経験値が手に入ることに気づいてしまったので、自身でレベル上げに勤しみ、今では完ストのLV999。
ここだけ見るとオレTueeeで、ハーレム作りまくり、お金稼ぎまくり、敵倒しまくり、と思うかもしれないが、そうではない。「モンスターを倒すとお金が稼げる」システムとは何かを暴き、そのさきに向かうというメタ性がとてもおもしろかった。
https://ncode.syosetu.com/n9669bk/
現代日本在住34歳ニートが、剣と魔法の異世界に赤ん坊として転生をする。今度は全力で生きようとして、その通り全力で生きる。冒険者としてレベルを上げ、いろんな種族と仲良くなり、最後は世界の仕組みと対峙する。私が読んだ中では珍しく、家族を作る。
藤孝剛志『即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。』
なろう:https://ncode.syosetu.com/n5691dd/
コミカライズ:
www.comic-earthstar.jp
殺意を感じただけで、その対象を即死させることができる主人公が、修学旅行のバスツアー中に、団体さんで異世界に転送させられて、という話。最初にゲームアプリをインストールさせられる描写がある親切設計。しかし私はゲームやらないのでよくわからないんですが、いろんなキャラというかロールがあるんですね。主人公高遠くんの淡白さも面白い。会話劇のテンポも良いし。
二日市とふろう『現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変』
https://ncode.syosetu.com/n3297eu/
パラレルワールドの日本のちょっと過去に戻った財閥令嬢様に転生して、という話なのだが、実際にはバブル崩壊期の日本を振り返る様な感じになって、グローバル経済との連携でこんな(ツライ)ことあったよねーなかなかハードな感じがいい。まだ完結していない。
こうやってみていくと、面白くない、ないしは、飽和してきたなと思ったら、その次のものがいろいろ出てきて、面白い。
なろう →書籍化→コミカライズ→アニメ化、という流れもできている様なので、これからこれでビジネスにもなっていくんだろうと思うと、ダイナミックにいろいろ変わっていくといいなと思う。
昔は小説は新人賞を取らないとどうにもならなかったのだけど、こうやって(プロから見たら稚拙であっても)読者の目に触れて、フィードバックを受けて、どんどん新陳代謝が行われるのは、いいことの様な気がする。