cafe de nimben

見たものと、読んだもの

007 No Time to Die で引用されている言葉

ネタバレ前提なので、未見の方はご注意を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

MによるJame Bond への哀悼の言葉

The proper function of man is to live, not to exist. I shall not waste my days in trying to prolong them. I shall use my time.

拙訳では、

存在することではなく、生きることが、人間のあるべき姿である。私は、長生きしようと日々をいたずらに浪費したりはしない。私は、生きるために自分の時間を有効に使う。

exist だけでは、人生の浪費/ waste とジャック・ロンドンは言い切っている。

Use my time ということを、Live/生きることと、対比している。ただ生きているという受動的な生がexist、能動的なそれが use my time と思う。

Daniel Craig 版007 だと、自分の命をかけて任務を果たし、不可能と思われるミッションを能動的に状況を掻き回しながら、多くの人を救ったことを、use my time だと、発言したMだけでなく、あの場にいた全員が思っていた、ということなのだと思う。

 

「よく生きる」系の名言

この手の名言はそれなりにあって、遡るとおそらくソクラテス*1のこれが源流か。

The really important thing is not to live, but to live well. And to live well meant, along with more enjoyable things in life, to live according to your principles.

拙訳では、

本当に重要なことは、生きることではなく、善く生きることである。善く生きるとは、日々の暮らしの中で楽しみながら、自らの根本に沿って生きることである。

Principleは原初とか根っことか、そこから本質的な原理原則というようなとても重い単語かと思う。職業で言うと、「天職を全うする」的な、重さ。最近の「自分らしく生きる」だと文脈によっては浅い感じになってしまうのが悩ましい。

しかし、任務中に楽しむこともありつつも、MI6から課せられた重い任務を果たし続けたと言う意味では、もしかしたらこのソクラテスの名言の方が、合っているのかもしれない。

引用された文章の作者は、Jack London

アメリカ人の作家、ジャーナリスト、社会活動家。

代表作に『野性の呼び声』/ The Call of the Wild (1903)*2 ) (1876生 - 1916没)

初出:The Bulletin, San Francisco, California, December 2, 1916, part 2, p. 1.

Also included in Jack London’s Tales of Adventure, ed. Irving Shepard, Introduction, p. vii (1956)

Source: https://quotepark.com/quotes/691110-jack-london-the-proper-function-of-man-is-to-live-not-to-exis/

これを、007の原作者であるイアン・フレミングが1964年の "You Only Live Twice" (『007は2度死ぬ』の原作)で引用している模様。

 

主題歌:Billie Eilish - "No Time To Die"

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基本的にはボンドとマドレーヌの恋の歌。題名はそのまま「死んでいる暇がない」

「No Time To Die」の歌詞・対訳を公開 - ビリー・アイリッシュ

 

挿入歌: Louis Armstrong - "We Have All The Time In The World"

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時間は売るほどある、腐るほどある、売るほどある。その時間の全てを使って愛し合おう、というラブソング。

女王陛下の007』(On Her Majesty's Secret Service)で使用された歌でもある。

あらすじからの類推になるが、ブロフェルドが殺人ウイルスで、と言うところは、この『女王陛下の007』を『ノー・タイム・トゥ・ダイ』がオマージュ*3しているのかも。

これがあの時間が本当に限られた時に流れる、最期の瞬間まで、時間を能動的に絞り尽くす。これが、use my time か。

着弾するまでの間、ブラックホールに吸い込まれるまでに時間が永遠に引き伸ばされるようなというSF 的な解釈をしたくなる。そういう意味だと、Daniel Craig のアップで終わってもよかったかもしれない。

おまけ:関連過去記事

過去記事だと、「無駄に生きない」を「今を生きる」とすれば、 "Carpe diem" になって、映画にあるよね、というのを書いたことがあるので、ご参照いただけると幸い。

nimben.hatenablog.com

 

 

 

*1:ソクラテスは著作を残していないので、原典と言うものがない。弟子のプラトンによる『ソクラテスの弁明』あたりに書いてあるのかも

*2:2020年のハリソンフォード主演作を含め、6度映画化されている。(未見)

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*3:話題はそれるが、Special Deliveryと言う言葉と、マドレーヌの娘の名が「マチルド」と言うところから、”Leon”へのオマージュかなと思ったのは、私だけ?

Cary Joji Fukunaga 『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』"007 No Time To Die" (2021/米)

これは傑作。

タイミングが合わず劇場で見ることができなかったことを悔やむ。

 

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映像が美しい

なんといっても、映像が美しい。構図も、色彩も。

ノルウェー、イタリア、ジャマイカキューバ、イギリスなどなど、ハリウッド大作ならではの世界各国を飛び回る。こう言うのは、ブロックバスター映画として理想的。旅行に行った気になれるしね!

 

それだけでなく、情報デザインが美しい。

見なければならないところは、見逃さないようにしっかりと見せる。それ以外のところは、被写界深度の浅さを使ってぼかすとか、視線誘導が心地いい。「なんのために、こんなの映しているんだっけ」みたいなノイズを感じることがない。伏線にしたいものは、一瞬ピントを合わせた後、ピントを外すなどなども含めて、「わかっている」感がある。このため163分もあるのに、全然ダレない。この映像だけでも、大満足。

Daniel Craig 版の5作

ダニエル・クレイグ版としては最後の作品であることを銘打って作られている。過去の5作を色々と引きずっているところがあるので、できれば、過去作も見ておくと楽しい。

 

以下の順番。単品でも楽しめるが、この順で見た方が、いろんな布石がわかるので、おすすめ。

007 カジノ・ロワイヤル』(2006) "Casino Royale"

『007 慰めの報酬』 (2008) "Quantum of Solace"

『007 スカイフォール』(2012) "Skyfall"

『007 スペクター』(2015) "Spectre" 

『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2021) "No Time to Die"

 

以降は、ネタバレ

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IMAXとドルビーシネマを調べてみる

簡単なまとめ

IMAXは、スクリーンがでかい。

ドルビーシネマは音がいい。

といっても、IMAXIMAXで、音質にも拘っているし、ドルビーシネマも画質に拘っているので、お好みで、ということになりそう。

 

IMAX

IMAXも、プロジェクタに違いがある。

  1. デジタル: 2K + 5ch
  2. レーザー:4Kレーザープロジェクタ (18-20m x 9-10m) + 12ch
  3. レーザーGT:4Kツインレーザープロジェクタ(26m x 18m) + 12ch  

レーザーGTは、池袋のグランドシネマサンシャインと、大阪のエキスポシティだけ。

HUMAX成田が一番大きいと思っていたら、抜かれていましたね。それでも大きい(24m x 14m)けど。札幌も大体同じ大きさ。

音声のチャネルを考えると、IMAXはデジタルよりレーザーを選ぶべきでしょう。5chと12chでは違いすぎる。

解像度も 2K/4Kだと随分違いますし。

ただし、GTにした時に大きいのはいいのだけど、この大きさまで引き伸ばした場合、解像度的に綺麗と思うかどうかは、見てみないとわからないかも。

ただ、レーザーが大体横縦が2:1なのに対し、GTの場合は、1.43 :1 なので、縦が長い。なので、見ている縦幅が大きいので、トリミングされていないサイズで見えることになる。

確か『ダークナイト』のジョーカー逆さ吊りなんかはIMAXカメラのはずだから、縦に長いのをトリミングなしで見たら、感覚は違うかも。『トップガンマーヴェリック』も空戦だから横に広い意味はないので、たくさん見えた方がお得だし。空戦はIMAX カメラで撮っているという情報は公開されているので、かなり期待できるのでは?

 

ドルビーシネマ

ドルビーシネマは、映像をドルビービジョン、音声をドルビーアトモスの両方に対応したものと考えればいいらしい(どこもその辺りはっきり書いていないのでよくわからない)

IMAXよりも後にできた規格なので、ドルビーシネマ対応映画館はまだ日本に7箇所しかない。

ドルビービジョンは、

HDRコントラスト比が高いので、ちょっと派手目の色で白と黒との間が細かく描かれそう。黒が本当に黒い、というのは、プロジェクタではとても難しいので、かなり期待。論理上はドルビービジョンの方がキレイな絵になりそう。

スクリーンサイズの規格があるのかはわからないが、丸の内は15m x 7m くらいなので、IMAXレーザーよりも一回り小さい。IMAX並みの大きいスクリーンが、今後できるといいんだけど。

ドルビーアトモスは、

立体音響技術Dolby Atmosという言い方をメーカーはしている。128chのトラックを用いて、場所情報を個別に捉えた上で、音声を再生する、というところが「立体音響」という意味だろう。12 chのスピーカーで、というIMAXとは別に考えた方がいい。(単純に128対12で捉えてはいけない)このため、最終的には7.1ch相当の音場かもしれないけれど、きめ細かく音がどこで鳴っているかを忠実に再現するとが可能。(現場のセッティングによるとは思うけど)となると、理論上はアトモスの方がIMAX 12ch (IMAXレーザー)よりも、音声の忠実再現性は高いと思われる。

アトモスだけに対応しているのは、全国30か所34スクリーンあるので、かなり多くなってきた。

追記:4D

4Dも見てきたが、個人的には、絵と音がいい IMAXが良いです。演出過剰で、没入から我に帰る瞬間があったので。急にGがかかるとか、4Dでないとできない演出はいいんですが、流石に全部が自分好みってわけない。となると、減点法になってしまうのかも。

 

トニー・スコット『トップガン』(1986米) / Tony Scott "TOP GUN"

amazon prime videoで鑑賞。(見放題対象)

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映画館でリアルタイムには見ていなかった。それでも、誰もが知っているという作品だった。テレビ放送した時に見ているはずなのだが、内容はほとんど忘れていた。

 

『マーベリック』の後に見ると、『マーベリック』がいかに前作をリスペクトして作っているのかがわかっておすすめです。

冒頭シーンの冒頭10分くらいが特別公開されているので、ぜひ。

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ちなみに、出てくる俳優さんとしては、

 

ティム・ロビンス (Tim Robbins)

クーガー(Cougar)と同乗していて、マーベリックと後で同乗するマーリン(Merlin)として出てくる。多分、一番有名なのは、『ショーシャンクの空に』のアンディ。

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マイケル・アイアンサイド(Michael Ironside)

インストラクター役として出てくる。私にとっては、『トータルリコール』(1990なので、リメイクではない方)の悪役なのだ。

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ヴァル・キルマー (Val Kilmer)

旧作ではそんなにICEというほど冷たくは感じなかった。「俺は主役しかやったことがないから、脇役は無理だよ」とずっと出演を断っていたらしいが、トップガンというbest of best が集まる学校という意味では、主役級がたくさんいる方がいいので、これはよかった。

『マーヴェリック』では声が出にくい設定だったが、本当に咽頭癌を患っていて、声が出ないらしい。AI技術で声の演技している。

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www.sonantic.io

ジョセフ・コシンスキー/Joseph Kosinski『トップガン マーヴェリック / Top Gun: Maverick』(2020米)

冒頭だけで500,000,000点。どうぞ、頭を空にして映画館へ。IMAXで視聴。


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迫力ですわ。まず、絵と音。

現役海軍トップパイロットが操縦するF-18にIMAXカメラをのせて撮影*1なので。IMAXのスクリーンとサウンドで楽しむのに最適なので、映画館にGo!

縦軸が、トム・クルーズ演じるマーヴェリックが、トップガンの教官として戻り、実現不可能なミッションに挑み、成功するという話。みんなが「無理じゃん」というのを成功させるというストレートなプログラムピクチャとして成功している。(疑似)家族愛がサブテーマ。

細かいところを突っ込もうとすれば可能だけど、いいじゃん、ブラッカイマー製作なんだから。絵と音で140分楽しみましょう。

私は、冒頭に "Danger Zone" が流れただけで優勝、という感じでした。

 

出てきた航空機

P-51 "Mustang/ マスタング"

第二次世界大戦で活躍した戦闘機。トム・クルーズが自身で所有しているもの。*2

これって、日本で例えると、零戦中井貴一が持っていて撮影に使ったもの、くらいの感じだから、すごいね。

SR-72 "Dark Star/ダークスター"

架空の航空機。SR-72自体は極超音速無人」航空機として開発中なので、本当にあの形をしているかどうかはわからない。しかし、製造元のエンジニアの協力があるようなので、まるっきり嘘ではないらしい。モックアップは実物大で作ったらしい。*3 見た目はSR-71によく似ている。

F/A-18 "Super Hornet/スーパーホーネット"

原型は1983年運用開始の現役戦闘攻撃機 (Hornet)。第四世代ジェット戦闘機。前作の『トップガン』は1986年公開なので、当時バリバリの最新鋭機。今回マーヴェリックで出ているのは、その後継のスーパーホーネットで、第4.5世代機。運用開始は1999年。今でも現役。

Su-57? 敵国第五世代機

「ならずもの国家」と、架空敵国なので、よくわからないが、一応、Su-57ということにしよう。

F-14Tom Cat

これも第四世代機だが、1974年配備2006年退役。『トップガン』の主力戦闘機なので、これを出さぬわけにはいかんでしょう。(米海軍艦載機としては、F-14 > F/A-18 ホーネット >  スーパーホーネット、の順)

 

第五世代ジェット戦闘機と云うと、世代って何?

第一世代:1940-50年代(第二次世界大戦末期から朝鮮戦争あたり)。亜音速第二次世界大戦の独: Me262が世界初実戦配備機。

第二世代:1950−60年代(ベトナム戦争あたりまで)。超音速。米F-100など。

第三世代:1960-70年代 (ベトナム戦争あたりから)。第二世代+マルチロール、電波ホーミングミサイル対応、夜間戦闘。近接戦闘(ドッグファイト)を廃し、超音速で視界の外からミサイルで撃ち合うやり方の頂点。米F4 Phantom/ファントムII*4や、ベレンコ・ソ連中尉亡命事件のMiG25など。

第四世代:1980-2000年代(湾岸戦争など)。ベトナム戦争で、米国第3世代機がソ連第二世代機にドッグファイトに持ち込まれて負けることがわかった。このため、第3世代機にドッグファイト機能を再び充実させ、操縦などの電子化を発展させた。米F-14 Tom Cat("Top Gun" といえばこの機体だ)や、F-15 Eagleが代表的。

第4.5世代機:第四世代に、第五世代の性能を一部足したもの

第五世代:2000年代から。第四世代に、センサーフュージョン、ステレス性などを付与。センサーフュージョン (Sensor Fusion) とは、センサー (Sensor) を機体内だけでなく、データリンクで繋いだ先の物も含んで、複数のものを重ね合わせて (Fusion) させて使う。もはや、戦闘機単体での戦闘では無くなる。代表機は、米国: F-22, F-35、露国:Su-57。

第六世代:構想段階。長距離兵器やセンサーにより、ドッグファイトの機会が減ることが予想されることに対応する。AIなどによる、無人戦闘も視野に入る*5

冒頭の、SR-72ダークスターによる有人マッハ10試験の中止は、この辺りのコンセプトからと思われる。

 

 

 

 

 

*1:

Fans can expect thrilling action sequences in the sequel of 1986's "Top Gun," (already glimpsed in the trailers) thanks to IMAX cameras placed in the F-18 cockpits flown by top Navy pilots. 

www.usatoday.com

*2:

eiga.com

*3:

deadline.com

*4:

エリア88 1

エリア88 1

Amazon

*5:

news.usni.org