『ニューシネマパラダイス』のジュゼッペ・トルナトーレ監督作品。
先入観なくみるにはそろそろ良い時期ではなかろうか。
見た人と語り合いたい映画のひとつです。
私は最後はハッピーエンドだとおもっている派です。
以降、ネタバレしまくり
トルナトーレ手腕
映画を見るときの悪い癖で、これからどうなるのかを予想してしまう。
予想を超えるのは二つ道があって、同じ方向なのだけどもっと高く飛ぶことか、そう見せておいて別の方向を向く、というもの。
この映画は後者で、途中から何を愛でれば良いのかわからなくなってくる。そのくせその車線変更がうまくできているからまんまと騙される。
最 初は、顔のない依頼人であるクレアとどうやってか取引をまとめていくのかというドタバタコメディかとおもった。次に、クレアとの執事と姫様関係かとおもい きや、ラブロマンス? となり、最後に、ビリーのコンゲームとわかった。とどめに、ラブロマンスなんだなと振り返らされるという振り回され方をした。
え、最後は、ハッピーエンドですよね?
フェイクのはずのものにもひとつの心理があり、ヴァージルにとってそれは偽クレアの偽装の愛が実は真実の愛であるということを信じて、夜も昼も(night & day) 彼女を待つという、片思いの悲しいハッピーエンドですよね?
題名の謎
実は題名がよくわからない。邦題のことではなく、原題。英語で "The best offer"。字幕では「最上の出物」と訳されていたりする。これは符丁になっていて、主役の鑑定士であるヴァージル(ジェフリー・ラッシュ。『英国王のスピーチ』で矯正士をしているひとですね)が、安く落札するための相棒であるビリー(ドナルド・サザーランド)に、これは落とせと知らせるためのもの。
誰かしらが誰かしらに、「最上の出物」を渡す映画、とみるべきなんだろうな。
ヴァージル「に」オファーするものは
- ビリー→ヴァージルは、自分が描いた絵
- ロバート→ヴァージルは、オートマタないし偽クレアのためのアドヴァイス
- 偽クレア→ヴァージルは、愛(?)
対価は、ヴァージルのすべてとも言えるコレクションなんですが。
いや、ビリーサイドの見方として "the best offer" はわかりやすいねん。そして最後にビリーがあっかんべーする映画なら、そういうわかりやすいシーンを入れたらいいじゃないですか。でもないでしょ?
これヴァージルサイドの映画でしょ。
ヴァージルは、初恋を偽クレアにささげるわけじゃないですか。その対価は?
なんかそこがしっくりきていないです。
ビリーの闇の深さが怖い
ビリーのおそらく長年にわたる仕込みの闇。想像するに10年くらいはかけているよね。機械ものをなんでも直せる腕があり、かつビリーのいうことを忠実にまもりながら、口も堅く、女にももてるようなひとをヴァージルに怪しまれないように配置するとか、ものすんごい大変だとおもうんだけど。最後のハグと会心の傑作であるバレリーナの絵がそれに結実するんだとおもうと、その白いヒゲとは裏腹のドス黒さに泣けてくる。
『スティング』のような一瞬作り上げるノミ屋であれば、まだカラッとした詐欺としてみることができるのだけど、ヴァージルのすべてとも言えるコレクションをすべて持っていくという、警察にいっても逆に自分の悪事がばれる、なんといっても恥だし、一番失いたくないものという超ピンポイントな復讐をやりとげる怖さったらありゃしない。
ヴァージルの純情がかわいい/かわいそう
やなやつなんだよ、最初。偉そうだし無礼だし。どんなにえらいか知らないけど!
でもだんだん癇癪を起こしている様子がちょっとかわいく見えてくる。これはジェフリー・ラッシュの愛嬌なんでしょうね。
盗み見たりしたいなんて、なかなかゲスいんだけど。
でも老人が30前の女性とああいう関係って、自分的にはピンとこないものがあって、そしてそのピンと来なささが、これはコンゲームなのかもしれないという予感にもなっていったのですが。
金でつながっている関係が、急に「金ではない」といったときは、金以外の何か別の喜び(多くはほの暗い)なんだろうと欧米価値観ではあるのかもしれないね。
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表編
裏編