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見たものと、読んだもの

三浦大輔『愛の渦』2014

ゲスいものを俯瞰的にスケッチすると何かが見えるような気がする。でもそれはやはり、その人のものであって、安易な一般化はゆるされない。

SEXをしに行くという、あからさまな話だからこそ。

第50回岸田國士戯曲賞(2006年)を受賞した一夜の乱交サークルでの群像劇の映画化。

予告編、みないほうがいいですよ。何か予断をもってしまいそうだから。

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スケッチとしてとてもよくできている。フツーのひとが、見ず知らずのひとと体を合わすのだから、どうやって進めていっていいのかよくわからないだろうギコチなさとか、非常に演劇的だなとおもいます。

一回戦目の賢者タイムから、すこしずつ打ち解けてきて、かつそれが踏み込み過ぎにつながって、だとか。すぐに人間ってマウンティングするのよね、やーねー。

一夜限りの乱交サークルの話なので、もちろんエッチシーンはある。ただ、なんだろう、全体のトーンとして温度が低い。女子大生が、実は性欲旺盛という設定なのなら、すくなくともそのシーンは、エロい気分で見られるようにしてほしいなあ。普段は解放できない自分が解放できたんでしょ、弾けるのを示すのが声が大きいだけってのは、ちょっと説明不足じゃん? 性欲旺盛とかそういうんでなければ(あるいはそれが裏設定ならば)まあ、温度低くてもいいけど。

ただ、黙々と動物園の交尾を見ているような気分にさせられるというのは、なかなか映画体験としてはレアな感じ。

べつに「これが真実の愛だったのだ」と悟るとか、「うるせー、これはおれの女だ!」といって殺し合いを始めてほしいわけでもないのだけど。やはり「高度なギャグ」なのかもしれない。でも、ゲラゲラ笑えばいいのか、くすくす笑えばいいのか、よくわかんなくって、のりづらかった。みたのはR−15版なんだけど、R−18のほうがもっと描けているのかな? モザイク以外に何か違いがあるんだろうか?

よいとおもった点は、一夜限りだったら、それは相手は美しいほうがいいに決まっているという本音は、通常生活では、政治的に正しい「みんな素晴らしい」という建前に覆われるのだから、それを「結局見た目かよ」などという身も蓋もないところをストレートに表示するところかな。逆にそれを見せようと思ってトーンを揃えると、確かにこういう冷たい温度感での撮影になるのかもしれない。でも、こんな感じで分析的にみてほしい映画なのかなあ、そうかもなあ。

スケッチ的な描写をするというのは、何を言いたいのかをお客様にまかせるといういいかたをするのは美しいのだけど、なぜそれを切り取ったのかという製作側の意図を描写で説明することをあきらめたという感じがする。エンターテイメントであれば、お客に対してなんらかのカタルシスを与えるのも仕事の一つだとおもうんだけどなあ。そこに収まりきらないものを埋め込むというのは、もちろんアリだとおもうんだけど。『プラダを着た悪魔』なんかは、カタルシスで満足させる部分と、そうでないリアルはそんな簡単にオチをくれないという描写のバランスがとてもいいとおもいます。

不思議な鑑賞感の映画でした。