再販です。
オリジナルは1981年から刊行されるコバルト文庫の『星へ行く船』シリーズ全5巻。
星へ行く船―ロマンチックSF (集英社文庫―コバルトシリーズ 75B)
- 作者: 新井素子
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1981/01
- メディア: 文庫
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出版芸術社から決定版として再出版されることになった。思春期だったころに読んでいたシリーズを、もう一度読むというのは、なかなか勇気がいる。
ひとつには年をとったので、いわゆるジュニア小説文体を今読んで読めるものなのか。
もうひとつは、思い出補正でハードルがとてつもなく上がっていて、けっこんなのつまらんと言い放ちはしないだろうか、ぼくが。
正直『星へ行く船』はちょいとつらかった。第一のほうの理由で。
宙港は、ごったがえしていた。そう、いつだってここはごったがえしているんだ。俺は一種の感慨を覚えながら思う。この前宙港へ来たのは、確か、中学の修学旅行で月へ行った時だった。その時も、ここは人でいっぱいだったっけ……。
あれからもう五年もたつのかあ。軽く足で空をける。小石でもけりたい処なんだけど、つめたい光沢のリノリウムばりの床には、勿論石なんておちていない。あれからもう五年。いつの間にか。そう、いつの間にか、俺は十九になっちまっていた。
というのが冒頭だ。「なっちまっていた」なんてさすがに今時つかわないからね。
でもまあ、それは慣れというもので。少しずつ、読み手のほうが作品世界に近づいていけばいい。
このシリーズで一番好きなのは『通りすがりのレイディ』で、ぼくもレイディが好きなのだ。
「(前略)自分が運のいい子だって確信と、”我、ことにおいて後悔せず”っていうのと、”人間万事塞翁が馬”っていうのがくっついちゃったら、できあがるのは超弩級の楽天家だろうって」
超弩級の楽天家ーー確かに。と。レイディ、急に真面目な顔になる。
「でもね。わたしにはあと二つばかり信念があるのよ。”不撓不屈”っていうのと……”誰が従容として運命に従ってやるものか”っていうの」
これを読んだ瞬間に、たぶん、ぼくはレイディに恋に落ちた。
細かいところは覚えていなくても、全体としてどういうことかは覚えているわけで、どうしてこういうセリフをいわなかならないのか、すでに知っているんだもん。
全く覚えていなかったとしても、莫迦だなあ、たぶんぼくはここで泣く。
そりゃ、ね。アクションシーンどうにかならないのとか。なんでみんなそんなにいいひとなのとか、ありますよ。でもさ、それはジュニア小説の文法だから、そこは引っかかる処じゃないというか、引っかかったらそもそも読むな的な。フランス書院文庫にエロを求めないくらい変な話で。
好き嫌いがあるとはおもうけれど、キャラクターが魅力的。キャラクターたちは、リアルタイムで読んでいる時はお兄さんお姉さんだったけれど、いまでは年下というか、下手したら、ほんとうにすごい下手をしたら自分の子供くらい。読みながら、あのお兄さんお姉さんが、という懐古的な読み方と、若いのに大人だねえとか、わかいねえとか思いながらいまの気持ちで読むとか。複雑すぎてよくわかんないことになっているけれど。
やっぱ思春期に、同時代にリアルタイムで読んでいてよかった。
そして、もう一度そのときの気持ちを味わいながら、それなりに年をとった中で読み返すチャンスがあって、ほんとうによかった。
<Fin> <-- ずっと「フィン」って読んでいたけれど、フランス語だったら「ファン」だね。こうやって知識は更新されていく。