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見たものと、読んだもの

安彦良和『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(角川書店/kindle)

なんか奇妙な話ですねぇと、我に帰ると思うのですが、読んでいる間はページめくりが止まりません。

絵にねじ伏せられた感が大きいです。

2001年から連載開始、2011年に連載終了して、この形にまとまっている。ファースト(1979年)から考えると、30年以上経過しているのか。

名言としてよく引用されるセリフの節々はそのまま出てきていて、クスリとさせられる。

新世紀エヴァンゲリオンが1995年。碇シンジアムロ・レイとの比較がよくされていた。改めて読んでみると、確かに似ている。いろんなところで丁寧に整合性が取られている。特に、アニメ版では触れられていなかった、シャアとセイラの過去編が描いてあるのは説得力が高い感じ。

 

変な作品だなと思うのは、

学生運動家としてのドズル

過去編の記述は、明らかに日本の安保闘争/学園紛争を下敷きにしている。70年安保の時に作者の安彦良和は20代前半なので、時代の空気としての影響を受けているんだろうなあ。ドズルの学ランは笑える。ドズルは、ちょっとバカだったりするが、情に厚かったり、最終的に特攻を選んだりするので、古き良きバンカラ日本人だ。

安彦良和 - Wikipedia

wikipediaによると、実際、学生運動していたみたいね。

ナチズムのカリカチュアとしてのジオン

ジオンがここまであからさまにナチ趣味だとは思っていなかった。「スペースノイド」は優良種なので、というギレン(なのか、オリジナルのジオン・ズム・ダイクンなのか。ジオンって、チェ・ゲバラ的なものなのか? 私がゲバラをあのTシャツ以外に知らないのでここはごめん)の演説の下敷きにある思想は、演説の時の会場の設えも含めて、完全にナチ的だ。

どちらの正義が正しいか、という対等な思想戦がない戦争。

しかも、「正しい」思想のジオンが、圧倒的不利な状況で戦争状態に入り、最初に乾坤一擲で相手を無条件降伏まで持っていくような戦いをし、最後に逆に物量その他で押しつぶされていく様は、真珠湾から敗戦までの日本の戦争の流れに近い。その「正しさ」に対する哀惜が流れているような気がする。しかし、アムロがいるので主人公側として通常は描かれる連邦は、ジオンのナチズムに対するカウンターとしての政治的「正しさ」は特に持たず、戦争ではあるが内乱の鎮圧くらいの格好で進めていく。冷戦時代の「民主主義 vs 共産主義」のような、どちらの正義が正しいか、という戦いとしては描かれない。

で、ニュータイプとは何なのか? という疑問

宇宙に出ることで、地球人とは違う感覚をもつ、というのは割とありふれているモチーフではある。例えば日本でマンガ・アニメでといえば、同世代だと1977年から連載が始まった竹宮惠子地球へ…』がすぐに思い浮かぶ。もちろん「ニュータイプ」ではなく「ミュウ」という別の呼び方ではあるのだが。ミュウは超能力者ですけど、星野之宣2001夜物語』(1985-86)の「タキオニアン」もIQなど能力に優れるが人間の範疇ですね。

 

 

(『地球へ』がうまく貼れないので許して)

 

で、アムロとかララァニュータイプだからモビルスーツの操縦がうまいって、モビルスーツ視点だとそうかもしれないけれど、それだけなん? というのがよくわからなくって。ザビ家の政争って、古代ローマ時代からの普通にある人間劇で、ニュータイプならではと思えるものはないですし。

良いところ

しかし、それを全部、リズム感のある進め方と、絵の力で押しつぶして最後までサクサクページを捲らせるというのは、ものすごい話ですよ。

シャア

何と言っても、シャアがかっこいい。なんでかっこいいのかよくわからないけどかっこいい。読者としては、出自その他からくる歪みを元に戻そうとして、ああいうへんちくりんな動きをするところに自分を重ねて、喝采しているのかもしれない。

少佐として軍団を率いているくせに一兵卒としてモビルスーツに乗って自ら戦闘したがるとか、知略でガルマを殺し、キシリアやギレンに取り入るとか、全く手段は選ばないし、しかもその目的も実はよくわからないという超変な人なんだけど、アムロよりもよっぽど主人公ですわな。よく考えたら性格は外交的なアムロなんじゃないかという気もする。だから同族嫌悪であんなに憎むんじゃなかろうか。しかも、描かれていないが泣きながら捨てて行ったセイラと一緒にいるし、自分をすりつぶしてようやっと手に入れたララァはすぐにアムロとの方が相性良くなるし、欲しいものを全部アムロに持って行かれた感が強いのかもしれない。私から見ると、アムロよりシャアの方がよっぽど女々しい。

爺さんがえらい。

デギンがえらい。才気に走るギレンやキシリアより、デギンの懐の深さ。ガルマとの絡みでただの老害と思っていてすまんかった。

レビル大将も然り。老害で食えない親父と思っていたら、やはりその地位にいるだけのそれなりの実力は持っていた、というのは嬉しい限り。若者の目に見えているものだけが、世の存在するものではない、というのはいい感じだ。

学生運動家から見たら、あの世代の爺さんって戦争がえりだものね。

ここら辺のは、『アリオン』という神々の戦いを描いたことで鍛えられていくものなんかな?

と数々の疑問はあるものの、一旦完結して見ると、なんかここで終わっていた方がいい気がするので、ファーストないしこの the originでガンダムは打ち止めにしたい感じ。

自分でも不思議だが、最初のお話のあとって、なぜか続編を見たくなくなることが多い。Blue Giantもそうなんだけどさ。