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ダニエル・ピンク『人を動かす、新たな3原則 売らないセールスで、誰もが成功する!』講談社2013 (2/2) 新ABCを整理する

さて、では新ABCを著者がどう定義しているのかを整理してみます。

感覚的にはいわゆるソリューション販売的な、相手理解、提案態度、提案を際立たせる方法、をまとめたものに近いように感じます。びっくりするような新規性のある感じではないですが、整理としてとてもいい感じ。

1. Attunement:同調

具体的に以下の3つに分けられると言っている。

  1. 相手の考えていることを論理的に把握する「視点獲得」
  2. 相手の感情を把握する「共感力」
  3. 相手の行動を「模倣」する(ちょっとNLPっぽい)

「力を減らすことにより力を増やす」と書いてあるのは、「自分が正しいと思い込みすぎていたら、相手が何を考えているかが見えなくなる。相手が何を考えているかわかることが大事なので、自分を一段下に置いてみる(謙虚になる、力を減らす)ことで、相手を理解し、それに応じた提案をすることで(商談のclose)力を増やす」という意味と理解した。これが「視点獲得」。これによって、相手と自分の関係を適切に定める。正しいことを行うために、冷徹に距離を測る、的な。

「共感」は、継続的な関係構築や対立緩和に役立つ。EQ的な適切な行動と言おうか。

ただ「共感」に寄り過ぎると、自分の利益を害してでも相手のためになるように、というそもそも論的な不味いことが起こりかねないので、「視点獲得」の方が大事という書き方がしてある。

ちなみに「同調」には「同調圧力」のように、「自分の意図とは反して、人の考えや感情に盲従する」というようなネガティブな意味がある。でも、自分を捨てろとは一切言っていないので、そこは注意。「空気を読む」「忖度する」ことではない。あくまでも相手の思考、感情に、チューニングすることが、この本での「同調」。

2. Buoyancy: 浮揚力:人を動かす時のフェーズ分け

前中後の三段階。

2-1. 人を動かす前:疑問形

  • 「俺はできる!」と言い聞かせるのではなく「できるかな?」と疑問文で自問してみると、答えを引き出す役目と、その答えの中に戦略が含まれる
    • 自問「このお客様に売れるかな?」
    • 自答「××したら売れるんじゃない?」←内発なので積極性がでる

2-2. 人を動かす時の口調は、ポジティブ3:ネガティブ1で

  • ポジティブに「親しげな口調で、何度も笑みを浮かべて、同意するようにうなずいて見せ、誠意ある感じのいい態度を示した」ら、ネガティブな調子に比べて2倍もの人が取引に応じる傾向。
  • ポジティブな感情は視野を広げ、受容力と想像力を高める→想定外のいい妥協ポイントが見つかるかも?
    • ネガティブな感情は次第に人の視野を狭める
  • ポジティブ:ネガティブ = 3:1以上から人生を謳歌できる
    • 11:1はやりすぎで逆に有害(「底抜けの楽天家による無知の祭典」手厳しい!)なので、適切な程度のネガティブは浮揚に対する重力として必要。
    • 著者おすすめのポジティブさの自己診断テスト

2-3. 人を動かそうとした後で、その日を自分にどう説明するか

環境に対する支配を長期にすっかり奪われると、全てを諦めてしまうようになる「学習的無力感」に陥らないために、どう振り返るのが良いか。

  • 「説明スタイルが楽観的な代理店の売り上げは、悲観的な代理店より37%も多かった」
  • 「説明スタイルが楽観的」というのは、「No」は自分が常にダメだから得るメッセージ「ではない」と、振り返った時に自分に対して説明スタイル。
    • 恒久的なものではなく、一時的なものと考えてみる
    • みんながそうなのではなく、たまたまその人固有の問題と考えてみる
    • 自分のせいではなく、相手の都合の問題と考えてみる
    • もちろん、全部を他責的に説明する現実逃避ではないことには注意が必要。

「学習的無力感」で有名なセリグマンのWebサイトは、本に書いてあるのとはちょっとだけアップデートされ、こちらになっている模様。

Questionnaire Center | Authentic Happiness

英語なら、Engagement Quiestionnaires>Optimism Test、日本語なら「楽観度テスト」を受けることになると思われる。まだ受けていないが、無料登録は必要そうだ。

3. Clarity: 明確性

明確性とは、見えていなかった様相を明らかにして、置かれた状況を理解できるようにする能力で、それまで存在に気づかなかった問題を突き止める能力のことと、この本では定義されている。

3-1. 問題解決力から、問題発見力へ

いきなり問題を解決しようとするのではなく、解決すべき正しい問題を発見することが大事。このため以下の二つが必要

  1. 膨大なデータを選別し、最適かつ明確な情報を提示する「情報監督能力」
  2. 可能性を明らかにしかくれた論点をあぶり出して問題をあぶり出すために「尋ねる能力」 

3-2. 明確性の出口、つまり問題を正しく発見したら、どう提案するか?

ビジネスだと、USP / Unique Selling Proposition: 「(当社の)独自の売り」をどうするかという言い換えになります。

「独自」化するためのフレームワークが5つ提示されます。それはノイズを減らしてお客様に「明瞭に」見てもらうための補助線です。「独自」をいうためには逆に「何と比べて」を明確にする必要があります。

  1. 利点の数を絞る(選べるものが多過ぎると迷う)
  2. 得られる経験をのべる(「ドリルのことではなく、穴が開いたらどういいか」を。佐藤可士和のHonda Step WagonのCMの話を思い出す)
  3. うまくレッテルをはる(ピグマリオン効果を期待する)
  4. 欠点もいう(ただし、利点の後で。かえって利点が引き立つ)
  5. 可能性をいう(確定した現在より、未確定の可能性の方が心を引きつける)

3-3. 出口ランプを見つける→ 具体的な行動を促す

「どのように考えるべきかを明確に示しても、どのように行動すべきか明確に示さなければ、人の心も行動も動かせない」というのは至言だと思う。言っただけで行動したつもりになっている人は多いからねぇ。

サンプルケースの「非論理的な質問で動機を理解する」というのは、とても面白いので、必読ですな。

 質問づくりについては http://rightquestion.org/を参考にと書いてあるが、主催者の著書を参考にした方がいいかも。

たった一つを変えるだけ: クラスも教師も自立する「質問づくり」

たった一つを変えるだけ: クラスも教師も自立する「質問づくり」

 

 ということで、ABCの話は終わり。

ABCの話は、「売らないセールスマンが売るための前段階で必要なもの」という話だったように思います。つまり具体的な売り方というよりも、もっと抽象的な段階で整理をしたところ。

この後の話は、もっと具体的に効果的な方法について記述される、のかな?

 

その他: YouTubeに乗っているもの

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