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見たものと、読んだもの

ノーマン・ジュイソン『ザ・ハリケーン』(1999)

1966年に、無実の罪で20年投獄された実在のルービン・カーター事件を元にした映画。


The Hurricane - Trailer - HQ

 

主演のデンゼル・ワシントンゴールデングローブ賞受賞。オスカーはノミネートされたが逃している。

デンゼル・ワシントンは『マルコムX』(1992年)にも主演している。マルコムXは1965年に暗殺されている。時代的には公民権運動が吹き荒れている時代で、血なまぐさい米国だった。

とはいえ、人種差別をする白人は悪で、それと戦う英雄譚、ではない。

ルービンを冤罪と戦う完全無欠のヒーローとして書いているわけでもない。彼は、「頑張る」と「諦める」の間を揺れ動く人物として描かれている。

また、白人を敵視しているものでもない。史実として彼と共にたたかった白人たちの物語でもある。

ルービンカーター事件

冤罪ではないかという話は、かなりされていたようで、芸能人たちも含み、再審運動がされていた。Bob Dylanの曲もあったりする。


HURRICANE Lyric - Bob Dylan

とはいえ、再審は長い間されて来ず、人もだんだん離れていった。

普通ならこれで終わりだ。

しかし、縁もゆかりもないカナダ人が、ルービンの伝記(The sixteen round/ 1974) を読んで感銘を受け、「ハリケーン」と交流を持ち、冤罪の証拠を見つけて、1988年に再審を勝ち取るのだ。これが史実というのが、なかなか興味深い。

映画として

一部、史実にあるカナダ人の釈放運動が描かれなかったり、あくまでも有罪を主張する、映画的に見ると差別主義者が、生身の警官として描かれたりしたりと、映画的な脚色ももちろんある。

正直、今から見て、自分が差別しなかったかと言われると、わからない。

自分の真実を感じ、正義として暴走する白人警官は、なぜ素行が悪く必ず罪を犯すpublic enemy を野に放つのかと、泣くのだろうなと思う。正義の邪悪な面がそこにはあって、その居心地の悪さこそ、この映画から一番感じ取るべきことではないかと、私は思っている。

もちろん、途中諦めかけながらも、支えられてなんとか勝ち取るカーターの精神力や誇り、ひょんなことから本を読んだことがきっかけで彼の再審を勝ち取るように生きていったレズラのひたむきさとかは、映画の表のメロディとして大事なポイントではあるんだけど。

そういう意味で、あまり爽快にすっきりとする映画ではないが、この映画を鏡として自分を振り返るのはいいかもしれない。