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見たものと、読んだもの

ヌード 英国テート・コレクションより @横浜美術館

久々にテート式のキュレーションに翻弄されて面白かった。

artexhibition.jp

ヌード NUDE ―英国テート・コレクションより | 開催中の展覧会・予告 | 展覧会 | 横浜美術館

 

横浜美術館は凄く久しぶり。10年は行ってない。その時何を見たのかも、覚えていないくらい。

アクセスは、ちょっと歩くけど、みなとみらい線みなとみらい駅に直結しているので、雨でも大丈夫なのはいい。

ショッピングモールのMARK IS もすぐなので (値段を気にしなければ) 大抵なんでも揃うし。

ヌード展は、私が愛するテートからの展示で、ブログやツイッターなどでキュレーションが、すごいという噂が多かった。

第1章の「物語とヌード」は良い。

フレデリック・レイトン「プシュケの水浴」、ハーバード・ドレイバー「イカロス哀悼」、あの「オフィーリア」のジョン・エヴァレット・ミレイによる「ナイト・エラント(遍歴の騎士)」など、神話的な理想化された男女の裸体として展示。ここを全ての始まりとする。

美男美女ですが、もちろん神様女神様なので、当たり前です。劣情を催すなんてことはありえませんなあ。美ですから、美。

#なお、ナイト・エラントは、模写が通常展にある。同じチケットでそのまま見れるから、忘れずに。

フレデリック・レイトン「プシュケの水浴」/ The Bath of Psyche by Frederic, Lord Leighton 1890

Image released under Creative Commons CC-BY-NC-ND (3.0 Unported)

 

ハーバード・ドレイバー「イカロス哀悼」/ Herbert Draper - The Lament for Icarus 1898

Herbert Draper - The Lament for Icarus - Google Art Project.jpg
By ハーバート・ジェームズ・ドレイパー - wwGsH3KJkvD1gA at Google Cultural Institute, zoom level maximum Tate Images (http://www.tate-images.com/results.asp?image=N01679&wwwflag=3&imagepos=1), パブリック・ドメイン, Link

天使の逆光の髪の表現がすごすぎるでしょ。「逆光は勝利」(たわば先輩)

#画面中央下の割れは修復されていたような気がする。

ジョン・エヴァレット・ミレイ「ナイト・エラント(遍歴の騎士)」The Knight Errant (1870)  / John Everett Millais

The Knight Errant b John Everett Millais 1870.jpg
By ジョン・エヴァレット・ミレー - 2. Tate Gallery, online database: entry N01508 1. http://www.celtic-twilight.com/camelot/art/millais/knighterrant.htm, パブリック・ドメイン, Link

とはいえミレーのナイト・エラントの女性は本当は騎士の方を見ていたのだが、エロすぎて書き直した、ということがX線写真でわかったらしいけど。

劣情を催してはいかんのです、神話ですから。 

なお、常設展で、下山観山が模写したものも展示されているので、そちらも是非ご覧あれ。 

第2章の「親密な眼差し」の寓話性

で、話が19世紀後半になると、神話から日常の、しかし寓話的なものに変わってくる。印象派系のドガルノワールマティス、ボナールがでてくる。それに従って、細密な絵柄がもっと曖昧なものになる。それは、印象派などの光を見せるものにすることによって、エロスという批判をかわす意味合いがあったのかもしれない。光の実験である、と。 

Pierre Bonnard The Bath 1925

Pierre Bonnard The Bath

Pierre Bonnard, Public domain, via Wikimedia Commons

Edgar Degas Woman in a Tub c.1883

Image released under Creative Commons CC-BY-NC-ND (3.0 Unported)

同じ湯浴みでも随分違いますね。

 

すごくちなみに、江戸時代の湯女図(MOA美術館、重要文化財,17世紀)

YUNA ( SERVICE WOMEN IN BATHHOUSE ) - Google Art Project.jpg
By Unknown - jQHU6547q24uEA at Google Cultural Institute, zoom level maximum, Public Domain, Link

 

 

第3章「モダン・ヌード 」

だと、さらに抽象化が始まる。20世紀前半。ヘンリー・ムーア、ジャコメッティという、抽象彫刻。ボンバーグの油絵「泥浴」に至っては、人かすらわからない。それってヌードといってもいいのか?

ボンバーグ「泥浴」 / Bomberg,David "The Mud Bath"

Bomberg, The Mud Bath.jpg
By Painting: David Bomberg., PD-US, Link

アルベルト・ジャコメッティ「歩く女性」/  ALBERTO GIACOMETTI "Walking woman (Femme qui marche)" 

Femme qui marche Giacometti Tate Modern T01519.jpg
By © Marie-Lan Nguyen / Wikimedia Commons, CC BY 2.5, Link

好みの泥人形ではなかったが、シンプルで美しい。

nimben.hatenablog.com

 

第4章 「エロティック・ヌード」

と、混乱が極まったところで、アイコンである、

ロダンの「接吻」

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別角度から。

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このために死ぬことになる、不倫の熱い恋。

ダンテの「神曲」インスパイア、なんですね。

エロスはタナトスの逆なんだねえ。思いを叶えると死ぬことになることになるかもしれないがために、逆にその瞬間を永遠に生きることになる。

youtu.be

頭の中は、この曲でいっぱい。

ちなみに、国立西洋美術館が「接吻」のブロンズ版を持っています。今は展示されていませんが。

collection.nmwa.go.jp

白大理石と青銅でどう印象が変わるか見比べたいけどなあ。なお、ブロンズ版はwikipediaによると300以上作られているようです。

 

このロダンの作品の裏、というか設置している壁の下の陳列棚に置いてあるのが、淡々と男性同性愛のスケッチというかイラストのようなホックニー

そして、風景画家として知られているので「こんな卑猥なものは描くわけないじゃないですか」と、習作スケッチを、死後焼かれたという、ターナー手塚治虫かよ。手塚のは公開されていないが、ターナーのエロいよ。タッチはターナーのまんまであれだもんね。

Joseph Mallord William Turner / Erotic Figure Studies: ?A Nymph and Satyr c.1805–15

Image released under Creative Commons CC-BY-NC-ND (3.0 Unported)

 

ターナーだったら普通はこういう作風を思い浮かべると思うの。

Shipwreck turner.jpg
By ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー - Calouste Gulbenkian Museum, パブリック・ドメイン, Link

 

ヌードは、具象になればなるほど、ゲスで、スキャンダラスでもある。

 

第5章「レアリズムとシュルレアリスム

スナップ写真のようなスペンサー「二人のヌードの肖像: 画家とふたり目の妻」。リアリズムが行きすぎると逆にエロくなくなったりもする。

マン・レイが、でていたのだが、裸婦の背中に描いてバイオリン化するという "Le Violon d'Ingres" はでてこなかった。ミュージアムショップでポスター的なものは売っていたけど。

ベルメールの「人形」となると、ギョッとする。

エロさがなくなってきて、別の突きつけられ方をしてる感じになる。

この辺り、絵を取り上げながら書いていきたいが、著作権などで貼れないのでご容赦。

総評

19世紀末から現在に至るまで。Nudeという一本の軸で展示されてきた。

神話の時代から、世俗へ。世俗に行くとなると、貴族的教養よりも、現代社会との関わりがもっと深くなる。

モデルの裸体は誰のものか、見ている自分はどういう立場のものか、それを突きつけられる。差別、フェミニズム、そういうものだ。そこを第6章から第8章で提示していっている。こういうのも「美」とみるのか、社会運動を突きつけられたとみるのか、自分の中の差別意識を意識することになったと思うのか、色々な受け取り方があると思う。

だんだん、よく女性モチーフになっているものを男性に変えるとか、白人を黒人に変えるとか。そういう現代社会への批評性がではじめる20世紀後半。モダンアートの一つの理由は批評性だと思うから、これはこれでありだけど、批評に立ち向かうには知的体力が必要だ。私は、そこまで体力も知識もないので、最後は重くて辛かった。

個人の好みとして、まず美しく、その通奏低音に微かに批評が香る程度が好きなので、批評性が前面に来るとちと好みと外れる。(その美しさの再定義を迫るのが現代芸術では? と言われると、辛いけどね)

こういう考えさせる的なもの、既視感ある。テートモダンだ。やっぱ、テートっぽいんだな。あんまり日本のでこういう突きつけかたをするキュレーションはない気がする。ほぼ同時に開催されている東京国立博物館の「名作誕生」は、仏像だったり、雪舟若冲の絵だったりと、多軸で見せているので、軸の大黒柱感は少ない。色々用意してあるので、気に入ったものを見ていってね、となる。これが、芸術に造詣が深い人向けに高く評価されるところだろう。

Nudeの場合は、自分も持っている肉体をどうみるか、見せるか、ということで、当事者になりやすい。また、Nudeという軸で展示会の最初から最後まで貫いているので、逃げようがない。

見ている時よりも、見た後の方が大きな爪痕を私の心に残す感じだった。

 

参考

bijutsutecho.com

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場内で再生されていたのは、以下。シドニーにも行っていたのね。

www.youtube.com

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