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見たものと、読んだもの

Tony賞2018のオープニングが素晴らしかった

今年6月に行われたTony賞の授賞式の様子を、今更見て感動するなど。

www.tonyawards.com

アカデミー賞のはよく見ているんだけど、Tony賞の授賞式を見るのは初めて。

期間中にブロードウェイで上演された舞台がノミネートされ、ブロードウェイ関係者による投票で決まる。へぇ、オフブロードウェイは対象外なのは知らなかった。

基本的にはアカデミー賞のようなフォーマットで進む。今年の司会者はジョシュ・グローバンとサラ・バレリス。どちらもよく知らなかったが、オープニングのこれで、心が鷲掴み。

www.youtube.com

 

オープニング: This One's For You

歌詞はこちら (訳は拙訳)

genius.com

[JOSH & SARA]
So it begins
These are the Tonys
A theater tournament
Find out who wins
Who gets to go home
With that glorious ornament
We are your hosts
And we're perfectly suited to be
Because, did you know?
Neither one of us has ever won anything

さあ、始まった
Tony賞の時間だよ
誰が勝って
あの輝かしい賞品を持って帰るのは誰なのか、見つけよう
私たちが、今回のホスト
私たちは、ホストにぴったりなんだ
なぜかって? 知ってる?
二人とも、何の賞も獲ったことがないからさ!

(中略)

 

(sung)
So let's take a moment for all of us
Before all our winners shine bright
Lest you forget about ninety percent of us
Leave empty-handed tonight 

さあ、私たちみんなの時間の時間だ
受賞者がピカピカに輝く前の
お忘れになっているかもしれないので念の為
ここにいる人の9割は、今夜手ぶらで帰るんだ

Lest:〜〜しないように

lest

 conjunction
\ˈlest   \

Kids Definition of lest

 

for fear that“I have to be sharp and clever, lest I go hungry.”— E. B. White, Charlotte's Web

Lest | Definition of Lest by Merriam-Webster

 

Oooh...
So this is for the people who lose
'Cause both of us have been in your shoes
Oooh...
This one's for the loser inside of you
And this is for the people who don't
Get to take the trophy home
Worked so hard and you look so pretty
Got your butt to Radio City!

だからこれは受賞しなかった人のためのショー
だってホスト二人ともずっと皆さんの立場と一緒
これは皆さんの心の中の敗者のためのショー
そしてトロフィーを持ち帰れない人のためのショー
一生懸命がんばって、バッチリ決めて
このRadio City *1 までやってきたあなたのショー

if I were in your shoes

informal

used when you want to tell someone what you would do in their situation:

If I were in your shoes, I think I'd write to her rather than try to explain over the phone.

https://dictionary.cambridge.org/ja/dictionary/english/if-i-were-in-your-shoes

 

Take it from two singing tuxedos
Smile tonight, no matter how it goes
Remember the shows who've proven a lack of top honor
Won't make you a goner
It might even make you a host!

このオープニングは、タキシードで決めた私たちホストからの贈り物
今夜は微笑もう、どういう結果になろうとも
最高の栄誉を得られなかったからと言って
ダメなわけじゃないってことを忘れないで
もしかしたら(私たちのように)ホストになれるかもしれないよ!

(中略)

[JOSH]
As much as we all love a rave review
We're here 'cause we love it even if we lose

[SARA]
What lasts are the stories and how we all feel
These shows help us open our hearts and they heal

[JOSH & SARA]
In a world that is scary and hard to endure
If you make art at all, you're a part of the cure
So whether you close in a week or ten years

[JOSH, SARA & COMPANY]
Antoinette honors everyone here!

私たちみんながレビューが好きなのと同じくらい
受賞を逃したとしても、ショーが好きだから、私たちはここにいる

ずっと心に残るものは、ストーリーと自分がどう感じたかということ
作品を見ると、心をひらきやすくなり、そして癒される

怖いことがいっぱいで、耐えるのも難しい世界の中で
もし、なにがしかの芸術に携わるならば、あなたはなにがしかの癒しになっている
ショーが1週間で打ち切りになろうと、10年続くロングランになろうと
マリー・アントワネットは、ここにいるみんなを讃えてくれる!

(後略)

 

人から言われるとブラック企業礼賛的になってしまうけれど、自分が好きでやっていることが他人から認められずに悔しい思いをするあまり、自分を疑い出したり、自信を失ったりする人に対する、応援歌となっている。ハーモニーも美しく、何度でも聞いていたい感じだ。

連想した曲 : Audition from La La Land

ショービジネスでまだ芽が出ていない無名の人のため歌というと、最近だと "La La Land" の "Audition"。同じくらい好きだなあ。

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And here’s to the fools who dream
Crazy as they may seem
Here’s to the hearts that break
Here’s to the mess we make

「夢見るおバカさんたちに乾杯、頭おかしいように見えるかもしれないけど、破れた心に乾杯、やらかしたことに乾杯」という、若さのあまりうまく言っていないかもしれないけど、頑張っていることに乾杯しようぜ、という、「(バカをやっている)自分を褒めよう」という感じが、似ている。

 

The Band's Visit / 迷子の警察音楽隊: Omar Sharif

作品賞でノミネートされていた作品は、どれも魅力的だった。一番好きだったのは、The Band's Visit / 迷子の警察音楽隊のこの歌。

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作品賞、主演男優賞、主演女優賞などミュージカル賞の主要部門を総なめにしたのがこの作品。

元が2007年のイスラエル映画イスラエルに招かれた、エジブトの音楽隊が間違って別の街に着いてしまい、というコメディ。歌っているのが町の食堂の女主人、聞いているのが楽団長。

 

歌われているOmar Sharif / オマル・シャリフとは、『アラビアのロレンス』のアリ酋長でも有名なエジプトの俳優さんですね(すでに鬼籍に入られていました)

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高校生のパフォーマンス: Seasons of Love

一番盛り上がったのは、高校生のパフォーマンスだったと思う。今年のバレンタインデーに銃乱射事件が起こった高校の生徒が、RENTの名曲 "Seasons of love" を歌った。 

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www.cosmopolitan.com

 

その他

Bruce Springsteenの紹介の時に、Robert de Niroが、"Fuck Trump!" というなど、ちょっとやりすぎ感があった。逆にいうとそれだけ自分が自分であることの価値を不当に低く見られているように感じているのだろう。そして、そう仕向けている(と思っている)外の世界に対してNoと言おうというのが、アメリカの雰囲気なのかもしれない。多分それは、トランプ支持者も感じていることで、なかなか一枚岩のアメリカにはなれない根深い断絶を見た気がする。

 

*1:授賞式会場