昨年(2018年)亡くなった永田生慈(ながたせいじ)さんの視点で、最新版にアップデートされた北斎の画業振り返り。
最初のものはそんなに作家性を正直感じなかった。しかし、年を経るにつれ、デフォルメと大胆な構図を獲得していったさまが見えるのが、面白い。最終期である「画狂老人卍」という雛鳥が孵るまでをみているかのよう。
個人的には戴斗期以降が大好きかな。
- 第1章 春朗期(20〜35歳頃):勝川派の絵師として活動開始
- 第2章 宗理期(36〜46歳頃):勝川派を離れ、チャレンジ
- 第3章 葛飾北斎期(46〜50歳頃):読本の挿絵。『鳥羽絵集』の抜け感
- 第4章 戴斗期(51〜60歳頃):『北斎漫画』など多彩な絵手本
- 第5章 為一期(61〜74歳頃):『富嶽三十六景』などの錦絵
- 第6章 画狂老人卍期(75〜90歳頃):自由な発想と表現による肉筆画
実際には、使ったペンネーム(画号)は30ほどあるらしいが。
個別に気に入ったものを順に。
北斎期
222番の、人をダメにする椅子に寝そべる布袋さんとかよかった。それまできっちり描く感じだったが、鳥羽絵集で抜くことを覚えた感があって、これがいい。市井の人々のいい顔。落語的な。
dedicated-monkeys.blogspot.com
絵も細かく、正確になっていく。
戴斗期
『北斎漫画』なんか、頭の中に解剖学的な人体構造と、その上に着物を着せた時にどういうドレープができるかが、三次元的にあって、それをいつでも任意の視点で二次元に描き起こせるんだろうね。
By 葛飾北斎 - Michener, James A. (1958) Hokusai Sketchbooks: Selections from the Manga, Rutland, Vermont & Tokyo: Charles E. Tuttle Company, パブリック・ドメイン, Link
By Katsushika Hokusai 葛飾北斎, (1760–May 10, 1849) - Touch&Turn, パブリック・ドメイン, Link
手塚の漫画入門の人々のいろいろな表情なんか、北斎漫画の影響がすごくあるように感じる。たしかに「マンガ」だ。
なんか、ソシャゲの英霊として召喚されそう。*1
参考:ちなみにこういうエロ系は、展示されていませんでした。
By 葛飾北斎 - http://www.rotten.com/library/sex/rape/tentacle-rape/, パブリック・ドメイン, Link
為一(いいつ)期
富嶽三十六景
生で見ると本当に素晴らしい。色褪せていないプルシアンブルーの美しさ。
神奈川浪裏の色を重ねるさまはとても楽しい。モノクロ二色だけでも完成してるなあと思ったが、色が入るたびに、生きてくる。波の🌊ザブンと来そうな波頭の崩れ。天候にかかわらず、泰然自若として波の向こうにただある富士。
By 葛飾北斎 - 3gF011oIXv3kcQ at Google Cultural Institute, zoom level maximum, パブリック・ドメイン, Link
構図でいうと、『遠江山中』も大胆で好き。
By 葛飾北斎 - http://visipix.com/index.htm, パブリック・ドメイン, Link
『山下白雨』 天上の晴天、天中の雲、そして下界の稲妻の対比が素敵。
By Katsushika Hokusai (1760-1849) - http://centreceramique.adlibhosting.com/detail.aspx?parentpriref=, パブリック・ドメイン, Link
諸国滝巡り
『諸国瀧巡り 下野黒髪山きりふりの瀧』。長時間露光のような滝の白さ。
By 葛飾北斎 - http://www.mainichi-art.co.jp/pages/arcadelinks/hokusai-taki/taki.html 毎日アート出版株式会社, パブリック・ドメイン, Link
『木曽路ノ奥阿弥陀ケ滝』 写実としてはありえない光景なのに、不思議な説得力
By Katsushika Hokusai (1760-1849) - http://centreceramique.adlibhosting.com/detail.aspx?parentpriref=, パブリック・ドメイン, Link
百物語から『お岩さん』。音声ガイドだと、落語で触りが聞けるのでおすすめ。
By 葛飾北斎 - https://www.loc.gov/exhibits/ukiyo-e/images.html, パブリック・ドメイン, Link
ちなみにお岩さんの小説で一番好きなのは、これ。
画狂老人卍期
またステージが上がった感じ。というか人間から神になってしまった感じ。
『狐狸図』の繊細と飄々のブレンドだったり、『富士越龍図』や『雲龍図』の龍。暗闇からフェードインしてくるような、存在感はあるのだが、それが物理的か心理的なのかわからないという神。
『富士越龍図』
Di Katsushika Hokusai - [1] and Jim Breen's Ukiyo-E Gallery - Hokusai., Pubblico dominio, Collegamento
西新井大師で見つかった『弘法大師修法図』は、暗闇のところにある細かい書き込みが素晴らしい。鬼のポーズは人間にはできなさそうな不気味さがある。上半身と下半身、こんなには曲がらないだろう。それが、人外感を醸し出して素晴らしい。
参考:
永田コレクション
なお、永田コレクションは、島根県立美術館に寄贈されている。今回の『新・北斎展』のあとは、永田氏のご遺志により、こちらでしか展示されない予定。
島根県の宍道湖の東のほとりですね。出雲縁結び空港か、米子鬼太郎空港からバスで30−45分。
なお、出雲大社へは、松江しんじ湖温泉駅から出雲大社前駅まで一畑電車北松江線を使うと、1時間強くらい。美術館から駅、駅から出雲大社も徒歩で20分前後ずつかかるようなので、トータルで2時間はみたい。となると、個別に行くよりは、あればバスツアーで行くのが良さそう。山陰の冬は雪が深いので、夏あたりがベストシーズンかも。
特設ページ
森アーツセンターギャラリー公式
*1:と思ったら、Fate/Grand Orderにて北斎出てくるらしい……。紫式部が出るくらいだから当たり前か