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見たものと、読んだもの

日本橋ヨヲコ『少女ファイト』講談社

気にはなっていたんですよ、この作品。

Kindleで3巻まで無料。まとめ買い(現在合計15巻。未完結)が20%オフだったので、これを機会に購入。

もっと早く買っておけばよかった。

 

 

楽しいには二種類ある。

ほんわか〜とした日常系なものと、自分が目指す高みに向かって何かを犠牲にしてでも勝ち取る喜びという激しいものと。『少女ファイト』は、圧倒的に後者だ。しかし、スポ根というのはちょっと違う。根性がないとできないことはしていると思うが、行動は根性というガソリンで、最新のメンタルのテクニックも含めて動いている。

 

子供は年齢よりもオトナなことはあるし、大人は年齢よりもコドモのことがある。

というか、年齢関係なしに、これについてはオトナ、これについてはコドモという多面体なのだと思っている。

人から見て大人なのか子供なのかというのは、役割による色眼鏡でそう見ていているだけで、本質は、変わらないのかもしれない。というか、変わろうとしない限り、変わらないのだと思う。(変わろうとしても、変われないことも、変わりたいのとは別の方向に変わってしまうことも、ある)

 

犬神鏡子というキャラクターがいる。

主人公の大石練が在籍する黒曜谷高校女子バレー部のキャプテンである。

彼女は、とても大人に見える。喘息による虚弱体質からワンローテしか保たないながら、試合を支配するセッター。ワンローテしか出ないくせに、各部員の最高到達点などを全て把握した上で、ベストなトスをあげるというバケモノ。そのオトナな気遣いが彼女のキャプテンシーを支える。

が、彼女とて高校二年生なのである。

細かくはネタバレになるから書かないが、幼稚に動揺するシーンもある。それが極端に触れるのが思春期というか高校生というかというのはあるかもしれないが、いやいや、大人になってもそうは変わらないよ、と思えるところがこの作者の芯なのだろう。

この前の作品である『G戦場ヘブンズドア』は、創作をする人の業を描いたすごい作品なのだが、どちらかというと如何しようも無い「情」を描いている。たった3巻なのだが、すごい密度で、知恵熱が出そうなくらいだ。

  

悩んだ時、何かに囚われてしまった時、この作品を読むと元気になれる。

名言が多いし、多分これは、『G戦場ヘブンズドア』のあとで、あの三人が大人になる過程で学んできた言葉なのだろうという気がする。

 

3巻P111 小田切

どうにもならない

他人の気持ちはあきらめて

どうにかなる自分の気持ちだけ変えませんか

少しずつでいいんで

4巻 P84 小田切

人に誤解されるのが

慣れるわけないですよ

9巻

P121 笛子監督

いいかいつでも行き詰まったら
整理整頓して掃除に励め

そうすればおのずと心も安定してくる

 

P123 大石真理


わたしたちは
嫌なことがあっても
自分の気持ちだけは
選ぶことができます

まじめに
嫌な気持ちを
選ぶことは
ないのです

姉ちゃんは
本当の強さって
体型や能力ではなく
変化していける
ことだと思います

自分はこうだと
決めつけないでね

練ならできるよ 

 

P183 黒曜谷高校女子バレー部のコピー

memento mori

vita brevis, ars longa

 

P191 式島未散

自分で自分を
許せなくなる
くらい
気高い激しさを
もったやつが
好きなんだよ

 13巻 しの

私が自分で傷ついたって認めない限り
誰も私を傷つけられないわ

15巻 P50 由良木コーチ

いいか春高は人生の縮図だ

理不尽な不幸も仕組まれた罠も
普通にあって当然なんだよ

多くの人間が関わってりゃ
トラブルは必ず起こる

万全の態勢で戦える機会なんて
Vリーグでもオリンピックでも
ほぼねぇぞ

感情が揺らいだら
すぐに呼吸を整え
リラックスして
姿勢を正し
常に体を動かせ

この戦場で
負の連鎖に
巻き込まれるな

P51

笛子監督

怒りでお前の知性を消すな。

試合中は不要な憶測をせずに

チームに必要な情報を取捨選択しろ

それが司令塔(セッター)の役割だ

お前の言葉は力がある

慎重に使えよ

 

P127 知花

愛し合う人との
お別れは
永遠に続く関係を
手に入れたのと
同じ

もうこれ以上
厚子ちゃんは
お母さんを
なくさないし

はじめから
なくして
ないのよ

 

15巻P178 蜂谷

自分の感情は
自分で処理
するしかない!

だからあんたが
相手の感情に
責任をとる
必要はない!

よそはよそ!
うちはうち!

たとえそれが
仲間同士で
あっても!

他者と自分はあくまでも別のものと諦め(明らめ)、自分がコントロールできるものだけに集中し(マインドフルネスと、ニーパーの祈り)、自分が目指すゴールに集中する技法でもあるなあ、と。

まあ、これを高校生でできたらバケモノのような気がするけど、世界を目指すアスリートなら、やっているのかもしれない。

さて、連載が佳境を迎えるみたいなので、あと数年、ドキドキしながらお付き合いするか。