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見たものと、読んだもの

小川一水『天冥の標』(てんめいのしるべ)早川書房/途中経過6巻まで

残念ながら、今読むべき作品。 今のアメリカの状況が、タイミングが今だと叫んでいるからだ。それが残念でならない。もっと遠くの世界の話として読みたかった。しかし、それだけに、強く入ってくる物語だ。

《天冥の標》合本版

《天冥の標》合本版

 

もちろんそれを意図した物語ではない。現在のCOVID-19やアメリカの暴動についての本ではない。初出が2009年、最終巻が発売されたのが2019年10巻17冊におよぶ大河SFである。

今のところ、第6巻9冊目『宿怨』を読み終わったところ。

全体のネタバレ感想は、完走してから書く予定なので、どの巻に何が書かれているのかはまだ書かない。ただ、生きようとする人の業が、別の人の業を呼び寄せ、踏みにじり、そして踏みにじっているものはそれすら気づかず、踏みにじられている方は踏みにじられている以上に歪んでいき、時に爆発する様は、この作品をただのスペオペでもない重厚なものにしている。そしてそれは、スペイン風邪と大不況と人種差別暴動が同時に発生した、原作スティーブン・キング、監督クエンティン・タランティーノとまで揶揄される2020年アメリカの現状を、オーバーラップさせながら読んでしまう自分がいる。

書いていることの深層はかなり重いが、語り口はライトで世界観がわかってくると、ページをめくる手が止まらなくなることは、うけあう。

一回、第1巻に戻ってから、第7巻に行こうかな。

 

SFの、ノンフィクションの良いところは、こういう悲劇ですら、俯瞰して見ることができ、キャラクターに寄り添うことで自分のことのように感じることができることだ。なので、ある意味苦痛ではあるが、快いという、うまく言葉に表すことができない複雑な感情を浮かべているところだ。

読み終えたらまた別の感情になっているかも知れない。しかし、読み進める快楽と、終わってしまう悲しさと、読むことによって変容するであろう自分の心がどうなるのか。それもまた、読書の醍醐味で、それに値する本に出会えたことは、非常に嬉しいことだ。