cafe de nimben

見たものと、読んだもの

今年読んで面白かったマンガ2020

まあ、今年を一言で言うと「鬼」かな。 

 

吾峠呼世晴鬼滅の刃』(全23巻完結)

チラチラと名前は聞いていたが、テレビアニメをみて内容を初めて知った。最終23巻が出た段階で、Kindleで一括購入。

しかし、このガロ風味、マーケティング的には、なぜ売れたのかはよくわからない。そもそも炭治郎って根本的なところがよくわからない。彼は人なの? ダークサイドがない聖人っぽい。行動は、ポジティブで礼儀正しくて、苦難に真正面からぶつかって、人からも好かれると言う、古来のヒーローものという気がする。

でも、普通の映画ならカットされるくらいにすごく努力するのは面白かった。地に足についた凡人主人公に飽きがきて、神話的な主人公が再び喝采を浴びるのか? と言って、似た漫画もなさそうなので、それでブームになりそうって感じもない。不思議。

 


『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』公開中PV

日本映画市場に残る売り上げとなった、無限列車編。次の遊郭編は映画の尺でいけるかもしれないが、その後のはどうするんだろう。半年おきに映画化するんだろうか。『ロード・オブ・ザ・リングス』みたいに3部作くらいで。スタジオのufotableの中の人、過労死しませんように。

 

裏側を知るのに良いインタビュー。

news.livedoor.com

 

田島列島『水は海に向かって流れる』(全3巻)

心の中に巣食う鬼とどう対決するか。を、炭治郎ではない凡人がやるとどうなるか?

自分や他人の行動がちょっと変で、かつそれが無意識だった時、それが何かで蓋をしていた自分の潜在意識だと気がついたら?

この作品を知ったというのは、今年の大きなラッキーポイント。

すごく普通の人の半径30センチをきめ細やかにすくいとる作家さんだなと。「こんなけつの穴の小さいことで悩むなんて」という呪いがあるが、端から見てどんな小さくてくだらない悩みやトラウマであっても、自分にとって大事ならば一生悩んでいても、正面からぶつかってもいいんだなと思わせてくれる。(そしてうまくすると、悩むというより、人とぶつかって足掻くことで解消されるかもという夢を抱ける)ささやかな苦しみと苦味と、そのさきの救い。

『水は海に向かって流れる』を実写化するとしたら主人公、20代の頃の小林聡美にやってほしいんだけど、今だったら誰だろうなぁ。松岡茉優かなあ。伊藤沙莉もいいなあ。

前作の子供はわかってあげない(全2巻)は2021年夏に実写映画になるそうで。キャストはすでに発表されていて、こちらは主人公が上白石萌歌。何気ない表情が大事な漫画なので、大袈裟な演技になっていなければいいなというのだけ心配。


沖田修一監督×上白石萌歌主演『子供はわかってあげない』予告編

manba.co.jp

アベツカサ/山田鐘人『葬送のフリーレン』

こちらは、鬼のような魔族と戦ってきて、これから戦うことになるエルフの話。

その発想はなかった、というところから今年の掘り出し物としては、『葬送のフリーレン』もあげたい。今年単行本発売なのに、もう3巻出ている。早い。

RPGによくある勇者パーティが魔王を倒して凱旋するところから始まるというのが、やられた。また、長寿命のエルフを主人公に、人類との寿命の差による感じ方の違いを主体にしているところも。1巻のノスタルジックさが素晴らしい。

と言いつつ、2巻以降は、ノスタルジーに止まるのではなく、現在そして未来に目を向けているのが、また良い。今の旅のゴール地点が魔王城なので、30年前の旅、再びなんではあるが、ただの再びになっていない。同じようなところを歩きながらも、それは同じ轍を踏み直すのではなく、螺旋のように少しずつ別の場所に向かっていくのだ。

鬼との寿命の差、というところに『鬼滅の刃』のテーマがあったが、エルフと人類という意味で、これは鬼滅と似ているのかも。


『葬送のフリーレン』PV初公開 魔王を倒した勇者一行のその後を描く“後日譚”ファンタジー

とよ田みのる金剛寺さんは面倒臭い』

こっちは主人公が鬼である。

面倒臭いと最初から言っているから、突き抜けてそのめんどくささを描くぞ! と開き直って大正解な痛快作。一周回ってストレートなラブコメ


『金剛寺さんは面倒臭い』3巻発売記念PV

そのめんどくささって、すごく大事だと思っている。それぞれの人が持つ根っこのところって、誠実に説明しようとしたら必ずめんどくさいものだから。必ずしも筋が通っているわけでもないし、飛躍やねじれも歪みもあるし。だから、普通は面倒になって説明しない。遮られたら怖いから。でも、どうしても言わないといけない時って必ずあって、その時はどんなに面倒臭いと思っても、逃げたらいかんと思っている。


chelmico「Easy Breezy」【Official Music Video】

「どうせやるなら めんどくさくなろうぜ」とchelmicoが "Easy Breezy" で歌っている。

 

大童澄瞳『映像研には手を出すな!』

chelmicoの"Easy Breezy" が主題歌になっていたNHKアニメ版から、乃木坂で実写ドラマと映画化と、映像研三人娘が今年の前半戦大旋風でした。


TVアニメ「映像研には手を出すな!」PV 第3弾【1/5(日)24:10~NHK総合テレビにて放送開始】

アニメが主題だから、漫画で描いたものが動くのはなかなかに快感でした。

きちんとめんどくさいしね!

ただ、原作漫画5巻が1月に出てから、続刊が出ていないので悲しい。いつものペースだと年末には出ているんだけど。

三人娘ではなくなって、音声や批評家やクライアントが出てきて、さらにめんどくさくなっていくとどうしても前進の駆動力が落ちるのだが、はてさてそこをどうしてくるのでしょうか。6巻が楽しみ。

宇佐崎しろ マツキタツヤ 『アクタージュ act-age』

漫画関係で今年一番悲しかったのが、この連載打ち切り。

別記事でも触れたが、黒山墨字編でどうなってくるかという期待を胸にしていたのに。すでにKindle版は新規販売していないようだし、紙版も無期限出荷停止なので、流通在庫限り。打ち切り経緯は経緯としてあるものの、いい作品が忘れ去られるのは、どんな理由であれ、辛い。布教のしようもない。

nimben.hatenablog.com

 

芥見下々『呪術廻戦』(連載中)

『呪術廻戦』も少年ジャンプ。

鬼滅、アクタージュと並んで見ると、私にとって今年は少年ジャンプの年だったなあという感じがする。


TVアニメ『呪術廻戦』ノンクレジットOPムービー/OPテーマ:Eve「廻廻奇譚」

 

少年ジャンプは、いわゆる黄金期が直撃世代だったので、それ以降は連載で読んでいないから、今の連載陣はほぼ知らない。唯一知っていた『こち亀』も終わったし。自分が読んでいなくても、本流としてずっとジャンプって看板掲げている強さを感じる。

プログラムピクチャ的な良さという言い方には収まらないかなと思っています。なんかまだ作者が意識的には表に出していない闇をたまに感じるので。

呪いを、本当にあるかどうかは関係なく、人がネガティブに思ってしまったものの集積と定義したことは、人の闇をガッツリ描くよ、と宣言しているのと同じだと思っている。これからどこまで陰惨なところを掘っていくのかという内容面と、それを少年誌のレベルの文体として受け入れられるレベルとして見せるのかというテクニカルなところも気になっています。真正面から描いたら、青年誌にせざるを得ないと思うので。

そういう意味で『鬼滅の刃』は一部欠損表現などほぼアウトなのでは? というところもありつつ折り合いをつけていてすごいと思った。折り合いをつけさせるところが、ジャンプ編集部の強さかなと。

 

その他 

唯一定期的に買っているのは月刊アフタヌーン

ずっと追っている連載は、『ヴィンランドサガ』話が畳まれようとしているのか、ここからさらに捻られるのか、ちょっとした踊り場に入っているのだが、それでも見せる巨匠感すら漂ってきた。激しくてどうにかなりそうだった最初の方の話、読み返そうかしらね。ある意味、アシェラッドが懐かしくもある。

『フラジャイル』は紙の単行本も買う別格。地味に面白いキャラが出てくる『フラジャイル』だが、あの弁護士先生はまた面白い視点で病院を突く話を持ってくるねぇと。病理医は、全分野の医師と関係があるから、医療に関わることならなんでも持ってこれるのが強いかも。コロナ、扱う日が来るのかな。

今年の新連載では、つるまいかだ『メダリスト』がいい。フィギュアスケートの過酷さは知っている気がしていたがとんでもない。あんな若さ(と言うか幼さ)で選別が始まるなんて。が、それを明るく楽しく頑張る主人公二人が、かわい楽しい。

ゆうち巳くみ『友達として大好き』も、ちょっと捻った角度のファムファタール(?)の主人公が、人とのコミュニケーションのルールを学びながら頑張る話。こう言うのって最後は支えていた側が実は支えられていたにいきそうなものだけど、このまま突っ張っ子って明るくゴールと言うのでもいいかもしれない。

なんかどっちも、ポジティブ天然頑張るの話だな。そう言うのに飢えているのか、私。

 

その他

twitterから火がついた上山道郎『悪役令嬢転生おじさん』。なろう小説で流行している「悪役令嬢」ものも、一捻りするとこんな視点の面白さが。

眉月じゅん『九龍ジェネリックロマンス』は、最初は古き良き九龍ものかと思ったら、これはなんだろうね。どう着地するのかが分からずに読めるのは連載物の面白さ。内容は、九龍でジェネリックな感じの人々がロマンスに落ちる話。何を喋ってもネタバレになりそうだから、面白いとだけ。

最後に

最後に傾向として、「私が私らしくある」ことを目指し、「人が人らしくあること」を許容することを正義とするような作品が増えてきたと思う。また、男女がいればすなわち恋愛ではなく、男女でも友達として仲良くなるし、LGBT+のいることは別に普通にあることだ、と言うジェンダーバイアスの少なさが当たり前な書き方になってきたかなあと言う気がする。これが「今」である気がする。逆に、ちょっと前のジェンダーバイアスがゴリゴリあるようなものに対して古いと感じるようになった。

別にジェンダーバイアスに限らないのだが、その共同体の精神に自分を溶かしていくと言う話が、今後どう書かれていくのかは、方向性として注目している。権威やシガラミに抑圧されているところに、個が個であることで突破するのは美しい。しかし、突破した後もそれで居続けることはなかなか辛い。集団の権威に自分を溶かし込んでいく喜びというのは、個の自由はないかもしれないが、序列をのぼるというわかりやすい階段があるし、それを突破していく楽しさはある。ベクトルは正反対で、この二つの中をどうゆれていくか、バランスをとるのか。自分がやりたいことと、属する集団がやりたいことがズレた時、どう折り合いをつけるのか。だんだん昭和のヤクザ映画的な話になってきたけれど、どういうバランスのお話が、2021年に出てくるのか、楽しみにしています。