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見たものと、読んだもの

ヤマシタトモコ『違国日記』(7) 祥伝社

この物語を読んでいると、自分の言葉だけで生きていけたらいいなあ、でもできないないなあ、それでも自分の言葉を紡ぐことは大事だなあ、尊いなあと思う。

Death Happens but never die youngという朝が着ているTシャツが好きだ。

ちょっと意訳になるが「いつかは死ぬけど、今じゃねぇ」と訳したい。売ってたら買う!

 

今回は、降りた人と、降りたくない人の話。

もうちょっと正確にいうと、自分が歩きたい道を進む人の話。

男らしさとか女らしさとか、社会人らしさとか学生らしさとか、親らしさとか子らしさとか、そう言ったものがある。

表紙になっている笠町さんは、エリート社員というコースを降りた人だ。

一般的には「敗者」レッテルを貼られてしまう。しかし、彼はそう言われたところで、おそらく動揺すらしなくなっただろう。「そこから降りて、逃げて、やっと人間になれ」た、と言えるのは、そういう無責任なステレオタイプ他者評価から自由になったのだと思う。

ステレオタイプ他者評価からの自由。

それから逃れるために、限りなく「空虚」になった人。

逃れはしないが、めんどくさいと思いながら、自分のスタンスは変えない人。

この7巻には、その視点でいろんな人が出てくるが、著者は別に誰が正解かを声高に叫ぶことをしない。

ただ、そのキャラクターの視点でその理不尽だったり嫌だと思っていることを描き、それに対抗してそのキャラが反応する。ただそれだけ。押し付けないので、読んでいて辛くない。

「キャラだから」って

言っているうちに自分が

本当はどうしたいのか

わかんなくなっちゃったもん

 って、本当に怖いことだと思うんだよね。

 

オリジナルが見つけられなかったので、本当に小津安二郎の言葉かどうかわからないが

どうでもよいことは流行に従い、重大なことは道徳に従い、芸術のことは自分に従う。

という言葉を思い出す。

『違国日記』を読むと、流行にも、もしかしたら道徳からも外れているかもしれないが、自分という芸術については、自分に従うしかないかもね、と言っているようにも思える。

そして、それを貫くのはツライことだと、正直に書いているのがいい。

確かにそれは、説教くさく言えば、「逆説の十箇条」になってしまう。

  1. People are illogical, unreasonable, and self-centered. Love them anyway.
  2. If you do good, people will accuse you of selfish ulterior motives. Do good anyway.
  3. If you are successful, you will win false friends and true enemies. Succeed anyway.
  4. The good you do today will be forgotten tomorrow. Do good anyway.
  5. Honesty and frankness make you vulnerable. Be honest and frank anyway
  6. The biggest men and women with the biggest ideas can be shot down by the smallest men and women with the smallest minds. Think big anyway
  7. People favor underdogs but follow only top dogs. Fight for a few underdogs anyway
  8. What you spend years building may be destroyed overnight. Build anyway
  9. People really need help but may attack you if you do help them. Help people anyway
  10. Give the world the best you have and you'll get kicked in the teeth. Give the world the best you have anyway

www.paradoxicalcommandments.com

 

以下、拙訳。

  1. 人は非論理的で、不合理で、自己中心的だ。それでも、人を愛しなさい。
  2. 良いことをすれば、何か下心があってのことだろうと責められるだろう。それでも、良いことをしなさい。
  3. 成功者になれば、偽物の友と本物の敵を得るだろう。それでも、成功しなさい。
  4. 今日良い行いをしても、明日には忘れ去られるだろう。それでも、良い行いをなさい。
  5. 正直で素直だと、傷つくことが多いだろう。それでも、正直で素直でいなさい。
  6. 気高い考えを持った素晴らしい人たちが、矮小な考えを持つ小者に撃ち倒されることもあるだろう。それでも気高くいなさい。
  7. 人は弱者を好むが、強者にしか従わない。それでも、数少ない弱者のために戦いなさい。
  8. 長年築き上げたものも、一夜にして崩れ去ることもある。それでも、築き上げなさい。
  9. 人が本当に助けを求めていても、助けるあなたが攻撃されることもあるだろう。それでも、人を助けなさい。
  10. 持てるものすべてを差し出しても、歯が立たずに絶望するだろう。それでも、最善を尽くしなさい。

いい言葉なんだけど、良すぎて、そんなことまではできないよね、というのが正直な感想。それでも、自分が自分であるということを、自尊心を持って叫んでいいんだよ、という、背筋の伸びる言葉として、響く。

特に第十条は、

誰のために何をしたって

人の心も行動も決して

動かせるものではないと

思っておくといい

ほとんどの行動は

実を結ばない

まして感謝も

見返りもない

(中略)

でも

そうわかっていて

なおそうすることが

尊いんだとも思うよ

という、高代槙生のセリフが、biggest men and women になれなかった凡人が、それだからこその努力をし、打ちひしがれ、それでも前を向いて歩いている人を尊いと思う良さだと思うんだよね。

 

上から、高すぎる意識を持てと脅迫するわけでも、下から、どうやってもできねぇよなと不貞腐れるのでもなく、できることを、地に足をつけてやっていく。絶望する時もあるし、うまくいって浮かれることもあるけど、あくまで、自分。

いいなあ、本当にいいなあ、この作品。