チセイは、地政と知性。
地政学の知識、数ヶ国語を操る知性、そして交渉とはwin-winであることと、それを信じさせる裏付ける力(暴力を含む)であることを知って動くと言うチセイを元にした八田さんのお話。現代が舞台。
いろんな国のいろんな事情、それに振り回されたり振り回すことを考える個人の話。
八田さんの人となりはずいぶん開陳されてきているが、なぜこの仕事をしているのか、という "why done it?" は開陳されていない。ここが背骨になるだろうから、これからも楽しみだ。
紛争のフェーズ
さて、地政学的な紛争地帯に出向いて交渉して解決するのが、八田百合の仕事。
紛争といっても、小規模戦争までいっていない。いつ着火するかわからないが、まだ個人レベルに近い状態。なので、芝村裕吏『マージナル・オペレーション』主人公のアラタのような民間軍事会社で軍事戦闘を行う人とは立場が異なる。
『紛争でしたら八田まで』も『マージナル・オペレーション』も、前線に出て実戦を行うという意味でローレベルなのだが、使う武器以外にも、投入されるべきフェーズが異なる。
基本的に戦争は先に殴ったものが悪い。なぜなら世界は平和で、戦争という人殺しをするのは、悪人が行う事だから、とされている。このため、戦争は外交を行ったにもかかわらず、双方折り合いがつかず、武力を持って解決するという、交渉の最終形態という形を取る。
第二次世界大戦のような総力戦の形は、現代ではなかなか取れない。やれば人類が滅びかねないので。となると、
八田が交渉人として関わるのは、1のフェーズ。アラタは、2の武力行使フェーズの人間。
紛争の定義
しかし、八田が行う話って、「紛争でしたら」という割と規模が小さくない? と思って調べてみた。
「紛争」Wallensteen(2002)によると、一般的に「紛争」とは、「少なくとも2つ以上の主体が、希少な資源(富や権力など)を同時に獲得しようとして相争う社会状況」と定義される
『紛争終結国の平和構築に資する インフラ整備に関する研究』
吉田恒昭 (東京大学大学院新領域創成科学研究科国際協力学専攻 教授)
紛争とは、狭義では武力紛争を指すが、武力紛争に至らない暴力や、力の行使に至らない意見の相違、利害対立なども包摂する広義の紛争を想起することもできる。長谷川は、「紛争は対立関係がさらに進んだ段階であり、複数の当事者が目標の両立不可能性を意識し、しかもなお相互に両立不可能な目標の達成を動機化し続けているような社会関係ないし社会過程である。」と定義している
『紛争と開発』
佐藤安信(名古屋大学大学院教授(当時))
ということは、武力闘争が起きなくても紛争は紛争だが、社会規模ということを考えると、八田のそれはまだグループや個人規模で、社会規模ではないような気もするが、これはこれから語られる話なのかしらん?
紛争/戦争の規模
草野昭一『21世紀の戦争』愛知県立大学大学院国際文化研究科論集第18号(2017)という論文の中に、II「人間(ジンカン)戦争(war among people)> ⑵ 紛争多発の背景」という項目が参考になる。
https://core.ac.uk/download/pdf/228945089.pdf
貴重な資源、奪い合うグループ、海外からの支援、人道支援などなどが混じり合い、狐と狸の化かし合いが起こり、最終的には流血に至ることが簡潔にまとまっている。
戦争の定義は随分変わってきていて、太平洋戦争の時の知識だとまるで役に立たないなぁという感じ。
例として出てくる、シエラレオネの紛争ダイヤモンド> エドワード・ズウィック監督『ブラッドダイヤモンド』(2006)
さて、八田が扱った紛争
第1話:UK(バーミンガム)
第2話〜第4話:ミャンマー
第5話〜第9話:タンザニア
第10話:幕間
第11話〜第14話:UK
第15話〜第20話:ウクライナ
第21話〜第22話:日本
第23話〜第31話:インド
第32話〜第36話:アイスランド
第37話〜(継続中):USA
世界中飛びまくり。
ミャンマーは、現在進行形で内戦状態になってしまった。
インドは、中国からのワクチンを受け入れることによって、中国 vs 米印という構図が崩れかねなくなってきた。
どんどん状況は変わっていく。
さて、それに対して順応していく八田の未来は、どうなるのか。続刊楽しみです。