cafe de nimben

見たものと、読んだもの

チョン・ビョンギル『殺人の告白』2012韓国

10名の女性を殺し、時効となった事件の犯人が、それを告白する本を出してベストセラーに。彼の目的は何? というサスペンスアクション映画。色々な伏線とミスディレクションが駆使されつつ、迫力のある(まれに無駄にやりすぎ)アクションで、終わりまでノンストップ。


www.youtube.com

 

ここからは全部ネタバレ。

 

 

 

 

この映画が、真犯人を炙り出すものとわかるまでに時間がかかる。そしてそれが、PoV映画的な臨場感をもたらしている。

 

よく思い出せば、全てに伏線が仕掛けられている。

真犯人の心のうち

「お前が私の広告塔だ」という言い方は、サイコな犯人のよくいうセリフくらいに考えてた。違う。「お前が私の広告塔の役に立たないなら、それを許さない」なのだ。そして、真犯人は、ヒョング刑事以外にそれを託せる人がいない。ならば自分が出ていくしかない。時効が成立しているから、出て行っても少なくとも刑事事件としてはリスクはない。肥大した自己顕示欲。それを満たすための殺人。そんな「素晴らしい」ことをした自分の功績を盗むものがいる。その礼賛は自分のものであるはずなのに!

これを直接は描写しない抑制の効かせ方が素晴らしい。

 

分断

被害者の肉親は、おそらく三派に分かれている。

この件を過去のものとして忘れたい、描写されない人たち。

話とは関係ないので、ほぼ描写されない。ちょっとだけ描写されるのが居酒屋の女主人か。あまりにも辛すぎて、それを抱えたままでは前を向けない、というのも人間らしい。

ハン会長を中心とする絶対に復讐したい派。

ただし、元々が善良な市民なので、色々と計画や運用が杜撰。映画の中での描写もあるが、もはやコメディにしかならないような雑さ。

しかし浅慮だからこその恨みと押し殺した怒りが真に迫る。特にハン会長演じるキム・ヨンエの思い詰めた表情が素晴らしい。善良なので悪事を振るう器ではない。本来は、過去を忘れるグループにいるべきだが、それができないのも人の心だろう。そのため色々歪んでしまっているように見える。

そして、キム院長、ヒョング刑事などの本作主人公グループ。

絶対に復讐したい、かつ、犯罪の裏の裏まで知っているので、悪を振るう器を持っている。このため、綿密で情報を最小限の範囲にしか知らせず、ハン会長グループと敵対することも、世間を敵にまわすことも厭わない。しかしその暴走は、法治国家のものではない。リンチと言わざるを得ない。

 

復讐を成すためには、刑事罰となる罪を犯すことも厭わない。

ここをどう捉えるかで、もっとも映画のラストシーンの意味が変わると思うポイント。

もやもやポイントは、「時効というポイントで話をドライブしてきたのに、時効内に捕まえる捕まえないの話から降りる」のは是か非か。

時効というポイント=法治国家の枠の中か外か

これは完全に好みの問題なのだが、私は、いかにベタと言われることになっても、時効ギリギリに犯人を逮捕し、裁判にかけて罪を明らかにすること、そして被害者家族の誰にも罰が与えられないことが必要なんじゃないかなと思った。

そうでなければ、時効になるかならないかというクライマックスが全く無駄になる。また、リンチでいいなら、別に時効関係なく、テレビ局で撃ち殺しておしまいにすべきだったことにはならないだろうか?

時効が切れたから本を出版した、で始めたループは、時効が切れていなかったので逮捕した、で終わるのが美しくないだろうか?

ここは好みの話だから難しい。『ダーティハリー』のように、刑事であっても、ほとんどリンチのように犯人を殺すシリーズがないわけではない。

ハン会長が、ずっと喪服のような黒い服を着ていたのに、ラストシーンだけ白い服を着て、怒りその他が浄化されたんだなという感じで終わったのは、とても美しかっただけに、ちょっとそこでもやもやしてしまう。