去年は私にとって、マンガ体験の比重がWebに移った年だった。
といっても、今自分が紙の雑誌で追いかけているのは、月刊アフタヌーンだけなので、別のものに変えたというよりは、追っかけるものが増えた、というのが正しいけれど。
今までも、収納スペースの問題から、単行本は一部の例外を除きKindleで買っていた。去年から、Web系の無料連載を読むようになった。その中で好みのものをKindleで買うという感じ。
Web系の無料連載のいいところは、試し読みが簡単なことと、未読管理ができるところ。
時間がある時は、手当たり次第に読めばいいけれど、時間のない時は読んでいる話を確実に抑えておきたい。そういう時にとても便利。
少年ジャンプ+というプラットフォーム
藤本タツキ「チェンソーマン」「ルックバック』
大きなきっかけは、少年ジャンプ+の藤本タツキ『ルックバック』かなと思う。
一部、苦情によってセリフが書き変わっているらしい。私は修正前の感触を覚えておきたいので、買わないと思うが、傑作だと思う。
昨年、twitterで『ファイアパンチ』を勧められて、そんなにハマらず、『チェンソーマン』でハマり、この『ルックバック』もよかったと言うところで、私にとって藤本タツキは要チェックな存在になりました。
掲載スペースは、少年ジャンプ+。
少年マンガだからこそ描いていない題材はあるけれど、だからと言って大人の鑑賞に耐えられないようには描いていないのだ、と言うことを改めて認識させられた感じ。
遠藤達哉「SPY x FAMILY」『石に薄紅、鉄に星』
まんまと単行本も買ってしまっている遠藤達哉も、去年の発見。
遠藤のすごいところは、主人公側が、人を殺すところ。殺しておきながら、少年マンガの主人公側として、きちんと成り立っているところ。
例えばハリウッド映画的には主人公は(基本的に)人を殺さない。例外的にアンジョリーナ•ジョリー主演『トゥームレイダー』で、今見たらわからないけど、当時私は受け付けられなかった。よっぽどのことがないと、殺しちゃいけないものだと思う。
主人公側が人を結構殺している青年マンガ『ゴールデンカムイ』であっても、少女であるアシリパさんには殺させない。
少年マンガで人を殺すのは、悪役の仕事であって、主人公側の仕事じゃない。
主人公側が殺しをするのだとすると、人を殺すということに対して葛藤をする。読者が殺せばいいんだよ、我慢することはないんだよと絶許するまで溜めるのが一般的。
『SPY x FAMILY』のヒロインのヨルさんは暗殺者を生業としていて、少年マンガとして成立している。ヒロインを張れるように描けるのは、どういうバランスで描いたらそれが可能なのかよくわからないところが奇跡。
少年ジャンプ+の金看板の『SPY x FAMILY』も良いが、この特別読切『石に薄紅、鉄に星』も素敵な御伽噺。
橋本悠「2.5次元の誘惑」
骨子は舞台をコスプレ、主人公をコスプレイヤーとした、少年マンガ。意欲はあるが無名の主人公(ヒロイン)が、戦いを通じて強くなり、強敵(とかいて親友と呼ぶ)を増やし、夢を実現していく話。
自分が自分らしくあることが大事、で終わるのではない。これは自己肯定感や自己効力感の話。その上で、コスプレイヤーという他人から評価される事を目指す。
オンリーワンであることと、ナンバーワンであることを両立させるという階段をのぼらせようと、作者はしているように感じる。
特に、コミュニケーションとディスコミュニケーションとミスコミュニケーションについて、深い思いを感じる。エンターテイメントの範疇に止まるよう、シリアスすぎる展開にならないように、バランスに気をつかっているように思える。
松本陽介『その淑女は偶像となる』
昔のスポ根もの的なストーリーを、舞台はアイドル、主人公はアイドルの女性で描くもの。いわゆる「穴に落ちた人が再び立ち上がる話」
うん、確かにこれ、少年漫画だわ。
そして読み切り群
私の知っている少年ジャンプでは、モリエサトシ『16歳の身体地図』は掲載されない。しかし、掲載されて、「おすすめ読切」として掲示されていたりする。
ここからスターが産まれていくんだろうなあ。
その他のプラットフォーム
原作:西尾維新、マンガ:大暮維人『化物語』
原作小説が2006年発売、アニメ版が2009年から開始。週刊少年マガジンで連載開始が2018年から。
なぜに今更コミカライズ、というところもよくわからなくて手を出していなかった。
しかし、マガジンポケットで見てみたら、これはとても原作+コミックとしてのαがあるということで、大人買いで追いついた。という意味で、Webで読まなかったら買わなかった作品。
物語シリーズをきちんと全部読んでいないので、正直知らないエピソードも多かったのだが、一本、漫画としての筋を通していて素晴らしい。コミカライズの大暮氏としては、委員長推しだよね、きっと。
宮下暁『東独にいた』
架空の東独の東ベルリン、1985年。東独を自由主義国家に架空の特殊部隊MSGと反政府組織フライトハイトの戦いを群像劇として見せる。
MSGはもちろん現実には存在していない組織。これを存在すると考えるのは、山田風太郎『甲賀忍法帖』『魔界転生』をリアルにあったと思うくらいの荒唐無稽な話ではある。しかし、オリンピックでのメダル数を知ると、そして冷戦下のソ連/東欧の不気味さを知っていると、そういうものが実はあったのかもしれないという、フィクションには十分な、奇妙な説得力がある。ありえないけどあり得たかもしれない、というのは物語としては一番美味しいところだ。
描き方も、パラパラ漫画のような、連続シャッター的な描き方をしたり、実写を取り込んだりと、マンガの枠を超えるようなものがあり、その斬新さは、私にとっては、大童澄瞳『映像研に手を出すな』以来。
これは、comic daysでの不定期連載。今の最新は21年7月24日のEpisode.25-2で止まっている。早く続きが読みたい。
東独にいた - 宮下暁 / Episode.1 フレンダー | コミックDAYS
七尾ナナキ『Helck』
これは連載完了後に知ったけれども、これは裏サンデー。
最初は、よくあるファンタシーものをメタでパロるものかなと思っていたら、実はかなり正統派の話でびっくりした。
裏サンデーは、今ではマンガワンと現裏サンデーに分派している。
あまり真面目な読者ではないので、アプリでしか読めません系は、どうしても敬遠してしまう。モバイルアプリをインストールするのがめんどくさいのと、どうしてもモバイル=画面が小さいというのが好きになれないので。
私は雑誌サイズ以上の大画面でマンガを読みたいのだ!
#モバイルからモニタに画像を飛ばしてみる方法があるのは知っているが、そこまでして見たくはない。PCだったら全画面表示すればいいだけなので、そうできるものを優先する。
ちなみに、縦スクロール系webマンガには手を出していない。
今のところマンガの文法が左右びらきを前提にして作られているものが多く、まだ縦型は試行錯誤中でもうちょっと枯れてからでいいかな、と思っていること。
左右見開き全画面の映画的迫力を好んでいるから。縦書き全画面だと、ドーン、という広がりがないので物足りない。目が左右に並んでいるから?
日本語縦書きでセリフが書かれる漫画だと、通常のコマは下に、ダイナミックに動くときは横に動くようなコマ割りだと思うのだけど、縦スクロール系漫画って、その文法って確立しているのかなあ、そこがよくわからないと思っていて。
スクロールに人が慣れているから、というのだったら、横スクロールにして貰えばいいんじゃないかと、思ったりする。
これは慣れのような気がするので、縦スクロール漫画で楽しいものがあれば、簡単に手のひらを返す可能性が高い。