「何したって、あれは私の全部だ」
これだけを描く映画。湿り気たっぷりなホラーだとおもう。
流氷の街は、ひとの住める場所の果てという感じで、湿り気と死の匂いがする。
死の匂いがあるなか香り立つのはエロスと相場がきまっている。16mm/35mmフィルムによるどことなく懐かしいアナログな感じが、もう定まってしまって変えようのない過去を映し出す。
東京の街は、蒸し暑さと部屋の汚さが、臭さと生の匂いを醸し出す。
生の匂いがあるなか香り立つのはタナトスと相場がきまっている。デジタルカメラのよそよそしいそしてやたら解像度が高くて現代的な絵が、今を映し出す。
シーンもエピソードもキャラも、ぜんぶが居心地が悪いのに、とりあえず最後までみせられてしまうのは、主演の二階堂ふみと浅野忠信の力だろうか。
腐野花を演じる二階堂ふみは、このときまだ十代だったんだよね。末恐ろしいな。
おそろしく省略が多いので、論理的には理解できない。シーンとシーンをつなぎ合わせるところは、想像を逞しくするしかない。だからいろいろな解釈があるのだとおもうが、花が淳吾を支配しつくしてしまうホラーとして、わたしは見た。
たぶん原作を読んだ方が理解がすすむのだとおもうが、こういう心にくる系のホラーは苦手なので読まないでおこう。