サモトラケのニケがフィーチャーされているので、その時点で5億点です。
ルーブル美術館特別展として全国を巡回するのだが、まずは六本木アーツセンターギャラリーで公開中。東京では9月25日までなので、早めにどうぞ。
さて。
ルーブル美術館が、ルーブル美術館をモチーフにすることを条件にマンガを描いてくれということであつまった日仏マンガ家16アーティストの共演だ。日本では「マンガ家」だが、フランスだとBD (Bande Dessinée) 作家となる。
BD対マンガ
BD側
- Nicolas de Crécy
- Marc-Antoine Mathieu
- Éric Liberge
- Bernar Yslaire (画) / Jean-Claude Carrière (作)
- Christian Durieux
- David Prudhomme
- Enki Bilal
- Étienne Davodeau
- Philippe Dupuy (画) / Loo Hui Phang (作)
日本側
おおざっぱにいって、DB側はコマ割の概念が、マンガとは違う。どちらかといえば同じ大きさのコマをひとつひとつ丁寧に埋めていく感じ。マンガは見開単位でコマを配置し、演出している感じ。BB側のほうがコマの中の精密度は上かなあ。コマ単位で絵にしている感じ。あとフルカラーの場合がBDは多い。このため、BDのほうが絵画的にみえる。マンガのほうは、デフォルメや省略というメリハリがあって、続き物の読み物としては、慣れているせいもあって断然マンガ、という印象。
本来は、バンドデシネは「描かれた (dessinée) テープ(bande)」→「続き物のマンガ」だから、マンガとBDの印象は逆になっていてもいいとおもうのだが、言葉って不思議。
ただ、もちろん作家によって、上記印象は違う。
日本側でも、寺田克也や五十嵐大介はおもいっきりBD側だし、坂本眞一もふつうの日本風に見せかけてかなり大胆にBDを意識した作品だった。
今後もお互いがお互いに影響を及ぼし合うってことは続いて進化していくにちがいない。
プレゼンテーション
ケレン味のある演出
もぎりがあって、そこがフォトスペースになっている。作家の紹介がちょっとポスタープレゼンみたいになっていて、appetizerとして食欲を高ぶらせる。
人が溜まって、次の間に通される。そこでアニメでこのNo.9のプロジェクトの意味がムービーで紹介される。No.9はマンガ/BDを第九の芸術としてみましょう、という意味がこもっている。ムービーのくろねこちゃんはかわいいので必見。
ムービーがおわると、スクリーンとして投射されていた白い壁がバーンとあいて、サモトラケのニケのまわりにマンガの原画が飛んでいるという図!!
はい、ここが、私個人的に5億点です。
ここもフォトスペースがあって、冒頭の写真となるわけです。BDっぽくしたかったのでPRISMAでいじりましたが。
あとは16組の作家さんの作品を原画でみたり、ルーブルの紹介をムービーでみたりと。作家さんの世界を具現するために壁や天井や床にまで配慮があったのは、よいプレゼンでした。
ただ、文句も2点ありまして。
まず、これはマンガ/BDの限界なのかもしれないのだけれど、「読む」のが難しいということ。とくにBD側はフランス語だし。吹き出しのなかはカラだったりするので、絵を見て下のセリフを日本語で読んで、それで隣の原画にうつって、となると、疲れる。
とくに、BD側は基本言語がフランス語だから、左から右に読むのがふつうだし、マンガ側は日本語縦書きが基本だから、右から左に読むのがふつう。でも、これを逆に展示しているものがけっこうあった。これだと流れがちぎれまくるので、疲れた。
もうひとつは、原画の大きさという限界。
タペストリーや壁に一部を切り取って表現するなど、工夫は凝らされているが、基本的には同じ大きさの原画をずっとみるので、ドォォォォって見れないんですね。世界が紙の大きさから出づらい。絵画でも小品だとマンガ原稿よりも小さいものはありますが、それは近くでみたり遠くで見たりといろんな見方をするという、みる方でいろんな手法がとれるのだけど、マンガは読むものなので、それが難しい。
たとえば、今回だと寺田克也なんかはセリフを廃しているからそういう見方はできたのだけど、セリフを読むことが前提のものはつらかった。
逆にキューレーターが工夫していたのは、坂本眞一や五十嵐大介の大型タペストリーとか、壁いっぱいの岸田露伴とか。その弱点を「絵」として回避しようという努力はみえているが、戦術的な成功で、戦略的な弱点をカバーするのは無理なんじゃないかという気になった。
たとえば、詩という芸術を美術展として掲示しようとおもったときの、手の出せなさに似ているのかもしれない。
個別の好み
- Éric Liberge : 小回りのケレン味と、コマ内の丁寧さのバランスが素敵
- David PrudhommeとÉtienne Davodeau : その手があったか。
- 松本大洋: 画風が『ピンポン』『ゼロ』とは随分違っていてびっくりしたが、これはこれでよい。黙って見せられたらBDだとおもうでしょうね
- 五十嵐大介: 一番好きかな。ニケが主役ってのもあるけど、明るく幻想的な世界が、シンプルに楽しい。
- 坂本眞一: まったく知らなかったのだけど、マンガをマンガでありつつBD側に寄せた感じが好き。インパクトは一番あった。
フランス語がよめたら、BD側もっと楽しめたのだけどね。というか、マンガであるならば、一冊の本が美術展だと言い切るってのもいいとおもうのだけど。セリフは日本語とフランス語の両方いれておくとか、さ。原画サイズでお願いします。
結論的には、もちろんオススメ!
ルーブル美術館に行ったことがある人は、いろいろ思い出せて面白いから行きましょう。とくにサモトラケのニケが好きな人は、アーティストがいろいろと登場させているので、おもしろいよ。
個別に作家のファンの人も原画をみるいいチャンスなので行きましょう。ネーム時点のものもあったりするよ。
お土産も充実しているから、好みがあったら買うといいです。わたしは五十嵐大介のサモトラケのニケのTシャツ購入しました。チケットあたり3点まで購入可能。
補足
なお、便乗して洋書展にて、BDの特設コーナーができているところもあるようなので、みてみるとよいとおもいます。紀伊国屋などなど。