まずは設定の勝利。
「この男を殺してください。御礼に10億円差し上げます」
誰も(仲間さえも!)が10億円に目が眩んで殺そうとする人の見える中、標的となった異常殺人者を東京まで護送する任務をえた警察官たちの物語。
基本的に危機>解消>新たな危機>解消>さらに新たな危機、という緊張弛緩の繰り返しでできてるところは『スピード』に似ている。一部のシーンは『セブン』など有名なシーンを借りて来ている。
ただ、私はこの物語を、あなたにとっての職業倫理とは何ですか? と問われている映画として見ていた。
護送対象の殺人犯は、幼女を弄んで殺す異常者である。時代劇価値観でいうと、殺して溜飲を下げるべき、という存在。なので、山崎努演じる老人がこいつを殺したら10億円、という気持ちはわかる。しかもこれを演じる藤原竜也が、本当にこいつクズだなという言動行動を徹頭徹尾完徹する。
にもかかわらず、警察官職務として、安全に東京の桜田門まで送り届けなければならない。「ほら、いいじゃん、殺しちゃえよ」ないし「殺させてやれよ」というシーンが満載。それでも、あなたは、職業倫理を守ることができるだろうか?
何となく、ヴォルテール (実際には彼の友人のセリフらしいが)の
「私はあなたの意見には反対だ、だがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」
という言葉が思い浮かぶ。
「私はあなたを殺したいと思っている。しかし、職業倫理として私は命をかけてあなたを生かして送り届ける」
これを荒唐無稽な堅物ととるか、あるべき職業倫理ととるかは意見が分かれるところだろう。見ながら「殺しちゃえ」「守るべきだろう」の間で私は揺れ動き続けた、そういう映画でした。