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見たものと、読んだもの

100万円の女たち @Netflix

キャラクターが活きているというのはこういうことなのだろう。

おすすめです。2017年にテレビ東京の深夜ドラマで放映、今はNetflix で見れます。

 

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解明される謎もあるし、されない謎もある。全ての伏線やミスディレクションがうまくハマるなんてのは、現実にはありえないのだから、リアリティという意味ではちょうどいいように思う。ドラマだけど、ちょっとドキュメンタリーっぽくて、ミステリーっぽくて、ちょっとラブコメでもあり、純文学的でもあり。いい意味で、日本の映画っぽい。ちょっと「黒い10人の女」を視覚的には思い起こさせるかも。

 

導入

売れない小説家である、道間 慎(みちま しん)は、5人の女性と同居している。

ハーレムではなく、シェアハウスのおかみさん的な立場として。

女性は、月に100万円を家賃として支払う。その代わり。

  1. 女たちに質問は禁止
  2. 女たちの部屋に入ってはいけない
  3. 夕飯は6人一緒に食べる

というルールがある。女たちは「招待状」を得て、この暮らしに入っている。「招待状」は道間には知らされておらず、女たちにはその内容はもちろん、ルール上聞くことができない。

その生活が始まって半年。

あり得ない状態になっているところから始まる物語。who done it, why done it の両方が問われるので、物語の駆動力は、完全にミステリーの手法。5人全員が妙齢の美女+冴えない男性というのも、漫画や映画で、割とスタンダードなパターンである。

さて。

 

キャラクター

キャラクターが立っている、というのはこういうものだと、感心する。

 

まずは、道間を、朴訥な演技で魅せる野田洋次郎が素晴らしい。陰気で、弱気に見えて、しかし小説を書くというところでの芯が強く、もしかしたら一番メンタルが強い。それを気負わずに、熱演ではなくあくまで自然体で演じているというのは、すごくいい気がする。

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というか普通、野田洋次郎といったらRADWIMPSのボーカルと思うよね。役者でこういう存在感を醸し出すとは。

 

強烈なインパクトを最初から与えるのが、白川美波(みなみ、と呼ばれる)を演じる、福島リラ。もともとファッションモデルで、”ウルヴァリン: SAMURAI" でもヒュー・ジャックマンと共演をしている。

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まず画面のインパクトから。彼女は家では裸族なのだ。実写で見るとその異様さがすぐにわかる。

が、インパクトは、彼女の性格もそうだ。女たちの中で一番年上で、酸いも甘いも嚙み分けている。とある裏の職業の社長をしているので、肝は座っているし、調査能力も高い。姐御、である。このドラマの中で、彼女が一番好きだなあ。ファンになった。

 

別の意味でインパクトを与えてくれたのが、小林佑希を演じる我妻三輪子である。ちょっとぽっちゃりで、親しみやすい感じに見えるが、「バカ嫌いなんで」と一刀両断する毒舌の持ち主。

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この人の表情が良い、嫌な顔もいい顔も。

他にも、色々曲者俳優がたくさん出てきて、しかも、変に舞台演技するわけでなく怪演するわけでもなく、隣のビルで起こってもおかしくないようなノリで、でももちろん日常をかなり逸脱している感じで、物語は進んでいく。

 

個人的には、道間の編集者をやっている桜井役の山中崇が、一番不気味なんだけど。彼は、長く道間の編集者をやっていて、どうにかして売りたいと思っている。(売るのは営業の役目じゃないのか、と思わなくはない)そしてその売り方は、正攻法のものばかりでは、ない。

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この俳優さん、最初はJTのCMで見たんだけど、いい意味で人畜無害が普通を自然体で演じるのが上手い方だと思っていたら、『アウトレイジビヨンド』で、おいおいおい、まあ「全員悪人」だから悪人なんだろうけどさ、という役でびっくりして、それ以来、サイコパス的に何か急に怖いことをするんじゃないかと、いつも身構えてしまう。

この他にも、女たちとして、武田玲奈新木優子松井玲奈が出演している。

 

3つの構造

主人公には、謎と敵が必要だ。

第一は、その状況という謎

はじまりで謎は提示されている。

誰が五人の女たちが道間と同居するという設定をしたのか。それはなぜ? そして、なぜ、女たちはそれを受けたのか?

第二は、道間の父、あるいは人殺しという業

道間の父は、刑が確定した死刑囚。その死刑となった原因が、妻が不倫しており、妻(つまり道間の母)と不倫相手と、止めに来た水口という警官の3名を殺したことにある。警官の遺族には定期的に線香をあげにいっている。彼は道間と同じ歳だったのだ。

水口の母の立場は、息子と殺された自分と同じく、母を殺された道間という、大切な人を殺された被害者同士、ということで、シンパシーを感じているらしい。もちろん、息子を殺した道間の父のことは憎んでいる。

第三は、嫉妬あるいは、小説観の相違 

これとは別に、外の敵が設定されている。

売れに売れているイケメン小説家の花木ゆずと、それに肩入れし道間を毛嫌いする森口竜市。花木は道間のことはぜんぜん気にもかけていないが、とあることがきっかけで、ライバル視するようになる。ライバル視ではないな、叩き潰したいゴミ認定というところか。

ここに、表向きは「小説観」の対立という、道間 vs 花木という軸が設定される。

それは、編集者桜井 vs 評論家森口でもある。

 

流れ

謎の提示、1話完結で女たちの一人一人をフィーチャーして、大きな意味での自己紹介が終わった後で、話がどんと動き始めると思っていたのだが、違った。先が読めなかった。

 

解かれなかった謎

  • 好き嫌いに理由はないとはいえ、なぜシェアハウスのオーナー以上の感情を、女たちは道間に対して抱くことになったのか?
  • そもそもなぜ、住む気になったのか。そう仕向けるように、「招待状」を含めていろんなお膳立てを、彼女が懇切丁寧に行ったのか。
  • 佑希はこれが初犯なのか、なぜ道間をターゲットにしたのか(ターゲット候補に上がったのはわかるが、決定的性が薄い。執着性は高そうな人なのに)
  • 道間の父の「人殺し」を軸にした時に、自分は誰に殺されるのかという問いの答え。それは父にとっての答え、同時に慎にとっての答え。プロローグとエピローグに出てくるくらいのテーマであれば、それが明かされないのはなぜ。
  • 漫画版のエピローグをドラマ版ではカットしたのか、そしてそのために復讐されないという担保はどこにあるのだろうか
  • 花木はどの地点から自分の小説観のアップグレードが必要かもしれないと思ったのか
  • なぜみどりは美波として生きていくことにしたのか、またなぜそんなことが可能なのか

などなど。

解明されない「裏」ストーリーだから楽しいのかもしれない。全部解説すると、多分冗長な作品になるしね。

作者のツイッターに、美波と砂子の裏設定が書いてあったので、それも参照されると良いかと。

あとは、これが全世界公開になっているから、外国だとどう思われるのかなというのは、知りたいところだ。