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見たものと、読んだもの

ダグ・リーマン『オール ユー ニード イズ キル』2014米国

これはいいハリウッド化。

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映画館では未見。主人公がトムクルーズになったのを知って、ハリウッド大作的な変な改変がされているに違いないという偏見による。

小畑健によるコミカライズ版を読んでいるが、主人公が若者であるところがよかったと思っていた。トムクルーズもよく活かされていると思う。

トムクルーズの冒頭が、卑怯者なのも良い。脅し方が小者すぎてたまらない。

そういう大人のビルディングロマンになったのは、演出がうまいんだろうなあ。 

本来は広報官だから戦闘経験がないといっているしそう描写されているが、見る方は『ミッションインポッシブル』のように、何でもできて当然というパブリックイメージがあるしね。

ハリウッドのスクリプトドクターがおそらく手を入れていて、論理的な矛盾点が最小限に抑えられているという基礎的な部分がしっかりしているのが、まず良い。

こういうタイムループモノは、最初にタイムループという大嘘をいうのだから、それ以外のところが論理的な辻褄が合わないと、妄想にしかすぎなくなるから。

アクションのけばけばしくないリアルな臨場感も光っているのは、さすがは『ボーンアイデンティティ』シリーズの監督というところか。

大作にふさわしい大掛かりな絵作りもあり、娯楽作品として大いに楽しめると思います。

ちょっとネタバレというか、言いがかり。

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オ・スンウク『無頼漢 渇いた罪』2015韓国

韓国映画をあまり見る機会がないせいか、異世界感がある。

似たような顔、似たような湿気、似たような部屋。

読めない文字、聞き取れない言葉、そしてリアルな暴力。

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暴力シーンが、痛い。イタいじゃなくて、痛い。

もちろん暴力シーンは映画的な見栄えを要求するエンターテインメントの一つだということはわかっている。李小龍ジークンドー、ジャッキーチェンのクンフー、時代劇の殺陣。今や武器もワイヤーアクションも空手もボクシングもクンフーも何でも使って見栄えの良いアクションシーンが作られていく。

この映画にもそういう配慮はもちろんあるのだが、技のかっこよさよりも、ダメージの方が、見ているこちらに伝わる。

と言っても、本当に怖いのは、物理的な暴力ではなかったのだが。

主人公すらもたまに見せるが、周りの刑事やヤクザたちの、人をモノとしか見ていない視点が圧倒的に怖い。

自分が「モノ」扱いされ、人間であることを止めて自分のことすらモノ扱いするようになるという心理的な過程とその行動、そしてそれに蟷螂の斧で立ち向かいそれが奏功したり逆に叩き潰される心理的な葛藤が辛い。

例えば。嘘でも何でも自分の都合のいい証言が取れればいいんだろうと、女性に催淫剤を施そうとするシーン。物理的な暴力としても見ても、怖い。だが、自分の性欲望を満たすためのモノであれば、許せはしないが、まだ理解ができる。それは自分の欲望という悪い意味での人間らしさの真っ黒なところの表現だから。しかし、犯人を捕まえるという職務に忠実さに裏打ちされ、相手をモノとして見ている虚ろな眼の表現と合間って、非人間的すぎて怖い。

小説文体としてのハードボイルドは、あまり一人称語りを入れずに行動だけを記述することで、その先の心理を浮かび上がらせるというものだ。この映画の場合も、特にナレーションなどで補ったりしない。文字にした瞬間に嘘やありきたりになる表情で、それを語っていく。

話自体は、構成もキャラのつけ方も、よくある話だ。しかし、グレーとブラックの間の無諧調のグラデーションの表情や所作から、目が離せなくなった。

 

興福寺中金堂再建記念特別展『運慶』@東京国立博物館平成館

素晴らしかったのは、間違いない

unkei2017.jp

 

運慶 vs 快慶

運慶と快慶は日本史でワンセットで習う。

ことし(2017年)の春に、奈良で快慶展をみた

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快慶には、阿弥陀如来を作り続けた静謐な木造彫刻職人という感覚を持った。

運慶にも、そういう何かを感じるかと思ったが、どうはならなかった。

四天王の猛々しさ、無著世親の大きく静かで強い意思、八大童子のきらびやかさ。不動明王大威徳明王の力強さ。

Kofukuji Hokuendo Muchaku Unkei (detail).jpg
By 今泉篤男 et al. - Nihon no Chokoku 6 - Kamakura Jidai (Bijutsu Shuppansha 1953), パブリック・ドメイン, Link

今回の運慶展では、小さいものから大きなものまでまとめて、静謐なものから獰猛なものまで、ありとあらゆる仏像があったように思う。懐の深さと言えばいいのかもしれないが、この様式が運慶だというところまでは分からなかったのだ。

行く前は、職人の快慶、外連味の運慶という感じかなと思っていたのだが。

きらびやかさでは、着色系の彫刻が多い運慶なのかなという気がする。

逆に、着色系なだけに、色が落ちている(800年前だから仕方がないのだが)ので、それが返って邪魔になっている面もある。快慶の阿弥陀様はあんまり金一色だったりするので、今も昔も変わらない感じなのだが。

滝山寺聖観音像のように色が完璧に残っているものは、息をのむほど美しかった。

八大童子も色は飛び気味だがなんとなく残っているので良い。興福寺の四天王なんかもフル着色で見てみたいものだ。

設置の素晴らしさと、その暗黒面

何と言っても素晴らしかったのは、設置の仕方である。

例えば、真ん中に興福寺の無著/世親を置き、周りを四天王で囲む。

四天王は興福寺南円堂のものだが、実際には北円堂にこのような形で安置されていたのではと言う説に基づく。お寺の中では前から拝むことしかできない。置かれている間を自由に歩き回れると言うのは、非常に贅沢だ。

しかし、ネガティブ面も残念ながらある。動線がどうにもならない。大混雑の場内なので、一方向に等速度で歩いて行けない作りだと、人とぶつかる。見ることに集中できないが、非常に辛かった。

国立なのでこう言うことはできないのかもしれないが、プレミアムチケットと言うことで人数限定でゆっくり見られるようなプランはできないものか。

好きな仏像

興福寺の龍燈鬼立像

ぷりぷりのお尻ですよ。

Koben Ryutoki.jpg
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これ、龍も一緒に「ガーッ」と言っているのが、かわいい。

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運慶ではないのだが、龍燈鬼立像のがっつりとしたお尻と太ももが好き。

今年の春の興福寺では真正面からしか見ることができなかった。今回は360度。嬉しいい。

興福寺の四天王

四天王は強い。多聞天毘沙門天ですからね、そりゃ強いさ。たくましいし大きいし怒り顔だし、最高。着色が全部残っていればいいのに。

Kofukuji Monastery Shitenno of Nan-endo (Tamonten) (406).jpg
By Imperial Japanese Commission to the Panama-Pacific International Exposition - Japanese Temples and their Treasures (The Shimbi Shoin 1915), パブリック・ドメイン, Link

持ち物って、直刀を持つ持国天をのぞいて、みんな三又の槍(三鈷戟)なのね。(なぜかポセイドンを思い出してしまって)

それで気になって調べるが、持ち物は別に決まっている訳ではないのだな。wikipediaを正とすると

持国天 東 日本では刀を持つことが多い 中国民間信仰:白面に琵琶

増長天 南 日本では刀剣ないし戟を持つ 中国民間信仰:青面に宝剣

広目天 西 天平時代は書き物、のちに三鈷戟 中国民間信仰:赤面に龍

多聞天 北 日本では宝棒に宝塔が多い 中国民間信仰:緑面で右手に傘、左手に鼠

※東西南北が普通の色の組み合わせとは違うのはちょっと解せない。

 

四天王に踏まれている邪鬼の足の指が、ほとんどの場合、親指二つみたいになっていたのは初めて気がついた。(願成就院毘沙門天の写真ので明確にわかる)

 

その他のお気に入り

途中から仏に玉眼を使うのを止めた。人には使い続けるので、人と人ならざるものをそこで分けるというのは、とても興味深い。

十二神将勢揃いは可愛かった。特に干支の動物を示す頭飾りが。

鳥獣戯画展以来の再会だが、高山寺の仔犬は本当にかわいい。触りたい。

備忘のための、YouTube動画埋め込み


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国立新美術館『安藤忠雄展 挑戦』(行きたいところ)

 

人生とは挑戦なんですよ。

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サントリー佐治敬三さんが、お前は面白いやっちゃと。青春を生きる見本になれ、と言われました。

青春とは20代30代の歳を言うのではなくって、70代でも80代でも目標を持って、自分に何ができるか、社会に何ができるかということを、考え続けている時が青春だと。だからお前は青春の見本になれ。と言われたんですけどね。

 まあ、毀誉褒貶は激しいが、面白い建築を第一線で作り続けている巨匠には間違いない。

20代には安藤建築めぐりをしたりしていたので、見に行きたいな。

やはり目玉は光の教会だと思う。茨木市の本物は見に行ったことがある。

本物は十字部分にガラスがはめてあるが、今回の1/1模型にははめていないのだそうな。安藤自身ははめていない方がよかったと、今回の出来栄えを見て言っているらしい(上記YouTubeでもそう言っている)

少なくともこれは見てみたいなあ!

 

国立新美術館開館10周年 安藤忠雄展―挑戦―|企画展|展覧会|国立新美術館 THE NATIONAL ART CENTER, TOKYO

www.tadao-ando.com

 

 

 

 

 

 

高橋慶太郎『ヨルムンガンド』サンデーGXコミックス(全11巻完結)

最初、なんで『ヨルムンガンド』なのかわからなかったのだが、読み終えると確かにヨルムンガンドですね。

この本の表裏には

五つの陸を食らい尽くし
三つの海を飲み干しても
空だけはどうすることもできない。
翼も手も足もないこの身では。
我は世界蛇。
我が名はヨルムンガンド

とある。そして、そういう物語だ。

 

ちなみに、北欧神話としてのヨルムンガンド

ヨルムンガンド - Wikipedia

 

最初はガンアクション漫画だと思ってて、5巻くらいまで読み進めていたのだ。

アニメ版だとこんな感じだしね。


ヨルムンガンド戦闘シーン1〜2話

が、単行本派なので途中から買い損ねていた。いやー、こういう終わり方だったのか。想像をかなり超えていて、素晴らしかった。

ネタバレ

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