5000年前、チグリスとユーフラテスの恵みによってもたらされたシュメール文明のカケラが、今も細々と伝わっている。それを読み解くのに、水滸伝という見立てを使っていると、こんなにもわかりやすくなるのか、とグイグイ読まされた。
2018年の初渡航から、コロナ禍を過ぎた2022年までのノンフィクション冒険譚。
この表紙の写真、前から2番目の人が、著者の高野氏である。そして彼らが乗っているこの船、タラーデ(族長舟)というのだが、彼が依頼して作った船だ。
「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをし、誰も書かない本を書く」というのが氏のポリシーで、この写真を見れば、それがこの本でも実証されている。ということで、解き明かされている様がとても面白いので、もうそのまま読んでほしい。博覧強記でありながらも実践的である彼の発見が、そのまま読者としての新たな発見として読ませるので。著者と一緒に、驚き、嘆き、楽しんでほしい。
補助線として、いくつか。
水滸伝。
これも中国の昔からの読み物として人気なので、いろんなバージョンがあるのだが、私が好きなのは、北方謙三版だ。
アウトローの好漢が梁山泊に集まる。それを疎んじる政府との戦いを描いた活劇だ。
時代は、日本では平安時代後期にあたる時代に中国にあった北宋時代の終わり頃。
宋江は、梁山泊の好漢百八人中の序列第一位とされる人物で、アウトローばかりの梁山泊の人間をまとめ上げる人物。「ジャーシム宋江」は、ジャーシム氏を梁山泊をまとめ上げている頭領として、著者がつけたあだ名。
そもそも反政府的な立場の人たちが逃げ込む湿地帯を梁山泊に見立てるってのがすごい。確かに現在日本人の常識では考えられないいろんな立場の人間がいて、その利害相反したりする人々をまとめ上げるというよりは顔をつないで、というところが、そして独裁者という感じではないが様々な人が頼っている感じが、ちょっと宋江っぽい。
呉用もでてくる。歌川国芳による浮世絵だとこうなる。(もちろん、絵面的ではなく、役割的な話だけど)
場所:メソポタミア
メソポタミアは、現イラクにあり、チグリス川とユーフラテス川の間の沖積平野。
Goran tek-en, CC 表示-継承 4.0, リンクによる
この本の舞台の湿地帯(アフワール)は、メソポタミアの最南端にあたる、チグリス川とユーフラテス川の合流地点周辺だ。上図では、右下にあるペルシャ湾 (Persian Gulf) の左上くらいの薄い緑のあたり。上図の注釈では "approximate extent of the Persian Gulf until 5500 B.C" (紀元前5500年まではこの辺りまでペルシャ湾だった)と書いてある。後に出てくるウルク朝のウルク (Uruk) の文字も薄い緑の地域のちょっと左にある。
イラクの首都バグダード (بغداد/Baghdad)や、バビロンは、アフワールよりも上流に位置する。上図では、緑でMESOPOTAMIAと書いてある文字のAとMの間に Baghdad とある。
歴史:メソポタミア文明とかシュメールとか
メソポタミアは地域名なので、歴史上複数の文明がある。
この本にも出てくるシュメールは、その中でも最古の文明。人類史上初めての文字が観測されている。文字ということは言語があるということだが、シュメール人が使っていた言語体系が、現存の言語のどの体系にあたるのかわからないというのもまた面白い。オカルト業界では宇宙からやってきたなんてのが定番。
シュメールのウルク朝の王の一人が、叙事詩でも名高いギルガメッシュ。
不明 - <a href="//commons.wikimedia.org/wiki/User:Jastrow" title="User:Jastrow">Jastrow</a> (2006), パブリック・ドメイン, リンクによる
某ゲームでは金ピカと言われるあの方ですね。
『ギルガメッシュ叙事詩』は紀元前25世紀くらいに成立か。
(上記はシュメール語版ではなく、のちの楔形文字版)
シュメール語で書かれたものが最古と言われるが、オリジナルは残っていない。元々は口伝とされる。
ちなみに紀元前25世紀はエジプトのクフ王がギザでピラミッドを作った時代。
Radosław Botev, CC BY 3.0 pl, リンクによる
メソポタミアの文明は、シュメール>バビロニア>アッシリア>新バビロニア>ペルシャと続き、最終的にはアレクサンダー大王(アラビア語でイスカンダル)によって征服される。
<a href="//commons.wikimedia.org/wiki/User:G.dallorto" title="User:G.dallorto">Giovanni Dall'Orto</a> - <span class="int-own-work" lang="ja">投稿者自身による著作物</span>, Attribution, リンクによる
創作活動にも色々影響を与えているメソポタミアを追体験できたことは、とても楽しかった。