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見たものと、読んだもの

3月のライオン:原作:羽海野チカ(2007-), 実写映画:大友啓史(2017)

原作も好きで、映画版をやっと録画で見たので。

タイトルの元々の文章は、イギリスのことわざで

march comes in like a lion and goes out like a lamb.

三月は獅子のようにやってきて、小羊のように去っていく。

日本でいう三寒四温のようなもので、春の最初は気温が獅子のように乱高下するが、だんだん落ち着いて穏やかな子羊のようになる、というもの。

実写映画版

映画の方は、前編後編となっており、エンドクレジットの時に出るのが、上巻がmarch comes in like a lion. 下巻が march goes out like a lamb.という、裏表感が出ている。

 

となると、前半は獅子のような嵐で、後半は子羊のような穏やかさで終わるかというと、いやー、そんなことはないと思うのだけど。もちろん大事なモチーフのいくつかは終わります。しかし、原作が終わっていないので、グランドフィナーレってではないという意味ですが。

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羽海野チカは、大きな意味での「愛」を、「恋」「情」「家族」「友」という細かい細かいグラデーションにかき分けて、そのマッチングのどうしようもなさを温かく見守るような感じが素敵。救われるというか。

ただ、それを全部入りで前後編に収めるなんて、尺が足りなさすぎるので、どこにフォーカスを当てて、逆に何を捨てるかが大事になる。またその選び方に、監督の作家性が出てくる。

よく前後編でまとめたな、という手堅い監督の手腕がひかる。

棋士としての桐山零を縦軸、家族を求める高校生としての桐山零を横軸として、堅実に編んである布という感じ。

縦軸を考えると、後編のフィナーレはあああるべきだし(それが子羊のように穏やかかどうかはよくわからないけど)

横軸を考えると、義理の姉というべきなのか香子が原作よりも前に出てきて「家族の不在」が出てくるのも必然だと思う。また、それに足る構成と演技になっていてとても良い。原作漫画の第一話を読むと、絶対これが太線だと思っていたんですよね。原作漫画では、今は、この辺りトーンダウンしているようにみえますけど。

ということで、この映画の有村架純はとても良いと思います。主演の神木隆之介は、他には思いつかない出来栄えという、『ハウルの動く城』で「うましかて」を「馬鹿手?」と思っていた天才子役というところからは、はるかに逸脱したすごい俳優さんです。

 

しかし、俳優さんってすごいなと思うのは、みんな頭脳労働でダサい人という絵にきちんとなるってところ。

伊藤英明染谷将太の怪演も良かったし、伊勢谷友介のガチクズも良かったし、繊細な佐々木蔵之介や、神の子宗谷の加瀬亮も良かった。

宗谷冬司をやった加瀬亮なんて、SPECの時は脳筋一本槍ですのに。

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原作漫画版

原作者である羽海野チカ*1は、ことわざの元の意味とは異なったものをこのことわざに見つけたようだ。最終形がどうなるのか、まだわからないけれど、最初は「『零』という名前の男の子と彼をめぐるみんなの物語」という小さな箱を見つけたと、第1巻のあとがき漫画に書いてある。

原作の漫画は2007年から連載されていて、継続中。現在は13巻まで。この12月末に14巻が出る予定。

主人公の桐山零のビルディングロマンでもあり、彼の周りの主に棋士の群像劇であり、という大河ドラマ

そういう意味で、前作の『ハチミツとクローバー』と同じような型。

ハチクロ』は卒業という終わりが必ずあることが前提の物語だったのだけど、棋士は死ぬまで棋士だから、どういう構成で今後を考えているのかは予想がつかない。私が気になる香子もどう出てくるのかわからない。

でも、ダメさも含めて、理不尽さも含めて、それを語っていくのを今後も期待したい。

*1:しかし、「羽海野チカ」とか『逃げるは恥だが役に立つ』の「海野つなみ」ってすごい筆名ですね。