cafe de nimben

見たものと、読んだもの

フェルメール展 @上野の森美術館

フェルメールルームという概念はとても嬉しい。光量を落とした部屋に浮かび上がる8点のフェルメールフェルメール作品は大きい訳ではないので、しっくりくる。希少性を考えると、かなり贅沢な作りなので、おすすめです。

フェルメール全制覇を目指す人は、 

東京展に12月20日までに行くと、「赤い帽子の女」を含む8点。その後大阪展(20192/16-5/12) に行くと、「赤い帽子の女」が展示されている時には展示されていない「とりもち女」「恋文」をカバーできます。

ちびパンフレットに、どこに何が収蔵されているかを示す「フェルメール全作品所蔵館マップ」があるので、それを参考に計画してみるといいかもしれません。基本はオランダを中心とするヨーロッパと、アメリ東海岸ですね。

 

システム

タイムスロットを分けて、チケットを販売するシステムは、奏功していると思いました。同時に入る人数を制限することができるので、大混雑の上限を設定可能ということではあるので。

価格は、ちょっとお高め。2,700円。特別展とされるものは通常2,000円弱なので、約1,000円高い。気分的には2,000円で見られるものが、3,000円と50%増しになった感じなので。ただ、希少性が高いということを考えると、まあ、妥当かもしれない。

音声ガイドが無料でつくのはいいとおもう(無料でつくというか、込みの値段と思った方がいいけど)ただ、どう「感じるか」というところについては口出しして欲しくないんですよね。見ているだけではわからない、話の前後関係とか、注目ポイントを事実として言ってくれる分には重宝するのですが。

ちびパンフレットも込みの値段です。絵の写真はついていませんが、絵ごとに簡単な解説と収蔵されている美術館の情報がついてます。

前半戦のオランダ絵画群は、意図はよくわからなかった。フェルメールと同時代のものを集めたのだとおもうけど。全般的に彩度高め。料理でいうと塩気が効いていて美味しいのだけど、たくさん食べると味が濃すぎて辛いというか。フェルメールがモチーフにしている宗教画、風俗画が置いてあるので、見比べて見ると良いかも。ただ、フェルメールルームに入るまでに、一度光の廊下を通るのだが、そこでオランダ絵画群の余韻が消えてしまうかもしれないので、ご注意。

通常展示

牛乳を注ぐ女

1658-1660年頃 油彩・カンヴァス 45.5×41cm アムステルダム国立美術館 Rijksmuseum. Purchased with the support of the Vereniging Rembrandt, 1908

Johannes Vermeer - Het melkmeisje - Google Art Project.jpg
By ヨハネス・フェルメール - 9AHrwZ3Av6Zhjg at Google Cultural Institute, zoom level maximum, パブリック・ドメイン, Link

生で見ると、エプロンに見られるようなウルトラマリンの青の綺麗さに圧倒される。黄色の相乗効果でより映えるし。

 

ウルトラマリンでいえば、真珠の耳飾りの少女と並べて見たいものだけれど。

Girl with a Pearl Earring.jpg
By ヨハネス・フェルメール - www.geheugenvannederland.nl : Home : Info : Pic, パブリック・ドメイン, Link

 

マルタとマリアの家のキリスト

1654-1655年頃 油彩・カンヴァス 158.5×141.5cm スコットランド・ナショナル・ギャラリー National Galleries of Scotland, Edinburgh. Presented by the sons of W A Coats in memory of their father 1927

マルタとマリアの家のキリスト
By ヨハネス・フェルメール - The Yorck Project (2002年) 10.000 Meisterwerke der Malerei (DVD-ROM)、distributed by DIRECTMEDIA Publishing GmbH. ISBN: 3936122202., パブリック・ドメイン, Link

今回の中で一番大きな作品。聖書そのまま。こういうのを描いていたということを知らなかった。これと「とりもち女」は同じぐらいの時期の作品。この二つは、なんか平たい。

その他のフェルメールルームの作品はここから10年くらい下っているのだが、その間に画風が、急に立体的、細密的になっているようにおもう。同じ部屋にあると、比較できて面白い。 

 

ワイングラス【日本初公開】

1661-1662年頃 油彩・カンヴァス 67.7×79.6cm ベルリン国立美術館

Johannes Vermeer - The Wine Glass (c 1658-1660).jpg
By ヨハネス・フェルメール - Staatliche Museen Preußischer Kulturbesitz, Gemäldegalerie, Berlin., パブリック・ドメイン, Link

おじさんが若い女をたぶらかすというのが、人気のテーマだったとのこと。無料ガイドでも触れられていたが、飲ませるのはいいとして、おっさんがグラスさえ出していないってのは、何だろうね、という違和感が面白い。ステンドグラスの「手綱」も、自制心を表すというのは、ガイドがないと気がつかなかったところ。 

手紙を書く婦人と召使い

1670-1671年頃 油彩・カンヴァス 71.1×60.5cm アイルランド・ナショナル・ギャラリー Presented, Sir Alfred and Lady Beit, 1987 (Beit Collection)  

DublinVermeer.jpg
By ヨハネス・フェルメール - 不明, パブリック・ドメイン, Link

手紙を書く時にメイドがいるかどうか、それがどう違うのか、というのを見比べるのが面白い。

手紙を書く女

1665年頃 油彩・カンヴァス 45×39.9cm ワシントン・ナショナル・ギャラリー National Gallery of Art, Washington, Gift of Harry Waldron Havemeyer and Horace Havemeyer, Jr., in memory of their father, Horace Havemeyer, 1962.10.1

Johannes Vermeer - A lady writing (c 1665-1666).jpg
By ヨハネス・フェルメール - The National Gallery of Art, パブリック・ドメイン, Link

これだけ夜っぽい。他が左側にある窓からかなり明るい光が入っているというのが基本構図なんだけど、これだけちょっと顔が灰色に見えそうなくらい暗い。儚い感じ。

リュート調弦する女」「真珠の首飾りの女」(と「恋文」)で、同じ羽織ものを着ているように見えます。フェルメールのお気に入りなのかな。 顔はちょっと違うけど、同一人物の流れがあるのかどうか、なんて夢想すると楽しい。

リュート調弦する女

1662-1663年頃 油彩・カンヴァス 51.4×45.7cm メトロポリタン美術館 Lent by the Metropolitan Museum of Art, Bequest of Collis P. Huntington, 1900(25.110.24). 

Vermeer - Woman with a Lute near a window.jpg
By ヨハネス・フェルメール - https://www.metmuseum.org/Collections/search-the-collections/110002333, パブリック・ドメイン, Link

真珠の首飾りの女

1662-1665年頃 油彩・カンヴァス 56.1×47.4cm ベルリン国立美術館 © Staatliche Museen zu Berlin, Gemäldegalerie / Christoph Schmidt

Jan Vermeer van Delft 008.jpg
By ヨハネス・フェルメール - The Yorck Project (2002年) 10.000 Meisterwerke der Malerei (DVD-ROM)、distributed by DIRECTMEDIA Publishing GmbH. ISBN: 3936122202., パブリック・ドメイン, Link

 

期間限定公開のもの

赤い帽子の娘【日本初公開】※12月20日(木)までの展示

1665-1666年頃 油彩・板 23.2×18.1cm

ワシントン・ナショナル・ギャラリー National Gallery of Art, Washington, Andrew W. Mellon Collection, 1937.1.53 

Vermeer - Girl with a Red Hat.JPG
By ヨハネス・フェルメール - ナショナル・ギャラリー: online database: entry 1937.1.53, パブリック・ドメイン, Link

なんか、これ、パリのカフェっぽいんだよなあ。2-300年位前なんだけど。

取り持ち女 (※1/9(水)~会期終了まで展示。大阪でも展示) / 初来日

1656年 油彩・カンヴァス 143×130cm

ドレスデン国立古典絵画館 bpk / Staatliche Kunstsammlungen Dresden / Herbert Boswank / distributed by AMF

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By ヨハネス・フェルメール - The Yorck Project (2002年) 10.000 Meisterwerke der Malerei (DVD-ROM)、distributed by DIRECTMEDIA Publishing GmbH. ISBN: 3936122202., パブリック・ドメイン, Link

恋文(大阪展のみ)

1669 - 1670年頃
油彩・カンヴァス | 44×38.5cm | アムステルダム国立美術館
Rijksmuseum. Purchased with the support of the Vereniging Rembrandt, 1893

Vermeer, Johannes - The Loveletter.jpg
By ヨハネス・フェルメール - Rijksmuseum, Amsterdam, パブリック・ドメイン, Link

ちなみに一度盗難にあっている。1971年。このため周辺部にダメージがあるらしいので、逆にどうなっているのか見てみたくある。

  

フェルメールの作品は、現存が37点と、数が多くないので、フェルメール全制覇を狙う人が結構いるらしい。作品解説はここにまとまっているのが便利と思うので、蛇足としてつけておきます。

フェルメールの作品 - Wikipedia

 

 

京都大報恩寺 快慶定慶のみほとけ @東京国立博物館 平成館

平成館の二階全部と思っていたら、半分はデュシャン展だったので、床面積的には小さい展示。(サントリー美術館くらい?)

しかし、仏像は慶派の良い感じ。

 

www.tnm.jp

www.tnm.jp

仏像だけじゃないけどね。

北野経王堂図扇面 室町時代・16世紀なんて、立体的で細密画で、すごく綺麗。

日本の絵でいつもおもうのは、黄金って派手ではないってこと。銀もそうだけど、静謐な感じがする。なんでだろうね。

 

伝大士坐像および二童子立像が、すごくいい(Webだと上記、トーハクの公式にどうぞ!)

童子は大士の実のこども。子供の表情がとても良い。

 

メインディッシュは二つ。

快慶と行快の釈迦如来十大弟子

釈迦如来(行快)

行快の釈迦如来は、目が切れ上がってクールビューティ。金箔の貼ってあるお顔の丸みもほよんとして良い。

耳で区別できるというのは知らなかった。Y字として、上に伸びているのが行快で、Yの上の両方が前の方に向いているのが快慶(個人的に快慶の方が人間っぽいとおもう)

十大弟子(快慶)

快慶の十大弟子は、多分全部が快慶のじゃないね。総監督かな。

ただ、快慶という証拠のある目犍連はすごかった。三尺阿弥陀の太ももの描写の香りがあり、そして、腕の血管! 曲がった腰と、爛々と輝く玉眼。

他の弟子も、誰かモデルがあるでしょうというくらいの人間臭さ。

これを全部360度回って見られるというのは、なかなか贅沢。

 

あと、フィギュア並みの小ささの、天王および羅刹像は、躍動感と表情が良い。1/1フィギュアにしたらいいのに。欠損部分は補っても想像で足しても良い。

 

肥後定慶の六観音

こちらはでかい。見上げる。唯一の坐像である如意輪さんも、嵩上げされている。多分高さは六つとも同じくらい。

肥後定慶は華麗かつ優美。髪の表現が細かい。

光背の透かし彫りも含めて流麗。

観音様は色々な顔をお持ちとは知っていたが、六道と連動しているのは知らんかった。

 

聖観音だけ撮影可能だったので。

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なお、10/30からは光背を外して展示。これは見たいかも。

しかしこの光背の軽やかさ優美さよ!

 

ダルちゃんは、フィリップ・マーローだ。

hanatsubaki.shiseidogroup.jp

 

ダルちゃんの気持ち悪さと気持ちの良さ

ダルちゃんは、2017年秋の連載当時から読んでいたのだが、気持ち悪かった。

10話でそれがピークに達して、読むのを止めた。

気持ち悪さとは、彼女が自分で自分を殺すことを世の中とやっていくことだ、と思いこんでいるところだ。そしてそれは、しょうがないから。こういう作品は、私には気持ちが悪く、受け付けない。

完結した。名作だ。みたいなことが書かれていて、ほんとかいなと再読。

うん、確かにそうだった。それは、ダルダル星人であるダルちゃんが、自分の足で自分の言葉で自分の人生を紡ぐことを選んだからだ。

 

生きてるってことは、極めて詩的な行為なのだ、それを選択すれば

詩というのは偉大で、それは文芸的なものである以上は技巧的な部分ももちろんあるのだが、ある意味、誰にもわからなくていいから、自分はこう思うと表明できることだと思う。

谷川俊太郎の『なんでもおまんこ』なんて、いやー一瞬何を聞いたんだろうか私というような詩があったりする。

詩と写真は似ている。僕ら一般人は、別にピューリッツァー賞を取るような写真を撮るわけではない。美味しかったご飯とか、友達と一緒に自撮りとか。多分、他人から見たらどうでもいいような、ありふれたもの。でも撮る。

詩も同じで、「でも」話す、ことなんだと思う。

「ポエムかよ」というステレオタイプの蔑称がある。まあ、他人からみた価値は、ネガティブなものになってもいい。あえて言っている陳腐なことは、やっぱり往往にして陳腐で、他の人から見て、どうでもいいものであることの方が多いのは、厳しいけど現実だろうから。

でも、本当に自分がこう感じたという世界と触った自分の感覚は、誰がどう言おうと嘘ではない。もう消えてしまったかもしれないが、確かにそこにあったものだ。

もしそれがなくなったら自分でなくなるなら、そこは何があっても守るところだろう。それがいろんな犠牲を伴うにしても。

あまりにもフィリップ・マーロー的な

いい詩っていうのはね
本当のことが書いてあるなぁって思うのよ
心がね
気持ちがすごくほんとうだなって
そう思うの
生きていると
社会で生きているとね
私たちは
悲しいのに笑ったり
寂しいのにすましたり
悔しいのに平気な顔をして
自分のほんとうの気持ちを置いてけぼりにしちゃって
だんだんと自分が何を考えているのかもわからなくなって
だから
詩に表れる生の言葉に
ほんとうの気持ちに
心動かされるんだって思うのよ
だから私は詩が好きなの

サトウさん。21話。

 

ダルちゃんは、自分が何を考えているかわからなくなっていたことに気が付いた。自分が何を考えているのかわからないのは、自分が自分で自分の気持ちを置いていけぼりにしていたからだと、気が付いた。

気が付いたら、もうそれを殺すことができなくなった。それがある意味、24年間何とか身につけてきた社会との関わりの仕方だったり、別の大事な事や人かもしれないけれど。辛いかもしれないけれど。

それって、フィリップ・マーローじゃん? ハードボイルドじゃん?

タフでなければ生きて行けない。
優しくなれなければ生きている資格がない。

If I wasn't hard, I wouldn't be alive.
If I couldn't ever be gentle, I wouldn't deserve to be alive.

レイモンド・チャンドラー『プレイバック』(生島治郎訳)

 

タフにならなければ、残念ながら生きていけない。そこには同意しかない。
タフさを方向を履き違えて、自分が自分でなくすると、自分で生きていく資格を返上してしまうような気がする。

 

To say Good bye is to die a little.

ダルちゃんだと「擬態すると、ちょっとだけ死ぬ」、かな。

 

そして49話で、

空はどこまでも高く
街はきらめき
世界は美しい
私は
自分で自分をあたためることができる
自分で自分を抱きしめることができる
それが
希望でなくてなんだろう

とダルちゃんは、自分の足で歩くことを決める。自転車でいうと補助輪が外れたところ。

タフに、ジェントルに、自分の足で、歩いて行け。

 

鹿島神宮と香取神宮の共通点

背筋が伸びるところでした。武神だからか、強さとか、厳かさというような感じが強かったかな。杉を中心とした神域の森林も豊かでよかったです。

祭神が、出雲の国譲り関係の武神

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葦原中国平定日本書紀

どちらも神武天皇時代の創建なので、約2700年前の話。
(正確には、鹿島が神武天皇元年、香取が神武天皇18年)

武甕槌神(鹿島)と経津主神(香取)とがセットで天照大神から出雲に遣わされ、大国主命出雲大社)から国を譲られる。
経津主神は、日本書紀には記述があるが、古事記に記述されていないところに、2000年前のちょっと大人の事情を感じるが)

蝦夷

日本の二大武神でもあるので、北への備えとして、どちらも本殿は北を向いているという。この場合の北への備えとは、平安時代坂上田村麻呂が討伐に行く、蝦夷のこと。

坂上田村麻呂って、清水寺を作った人なんですね。征夷大将軍としてしか知らなんだ。

武道の神

武神なので、弓道場などがあったり、古武術の演武大会が行われる。また、道場に「鹿島大明神」「香取大明神」の掛け軸があることが多い。(香取慎吾が主演のNHK大河ドラマ新撰組!』で、「香取慎吾が主演だからと行って『香取』の掛け軸をかけるとはふざけるにもほどがある!」なんて意見があったのはご愛嬌)

鹿島神宮には塚原卜伝のロケ地だったという碑が立っていたりもしました。

香取神宮には、天真正伝香取神道流創始者である飯篠家直法名:長威斉)のお墓があります。奥宮のすぐそば。

 

要石

地震の化身であるナマズを鎮めている、とされている石。

鹿島のレリーフがわかりやすい。森の中、要石の150m手前。

 

石自体はそんなに大きくない。直径が20cmあるかないか。

鹿島神宮(左)は、ナマズの頭を押さえていて、凹がある(ちょうど小銭が)

香取神宮(右)は、ナマズの尻尾を押さえていて、凹がない。(凸とは言えないかも)

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どちらも奥宮の近くにひっそりとある。
香取のは近くに香取護国神社があるが、鹿島のは森の中。

※どちらかのかは定かではないが、黄門様が掘らせてみたけれど7日たっても石の全貌が明らかにならなかったという伝説がある。

 

1855年安政の大地震の時に、武甕槌大神ナマズを踏んでいる錦絵が流行ったらしいが、その錦絵は鹿島神宮社務所で見ることができる。

 これだったかな、自信がないけど。

「地震よけの歌」。
By 匿名 - http://www.wul.waseda.ac.jp/kosho/chi05/chi05_4048/, パブリック・ドメイン, Link