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特別展「仁和寺と御室派のみほとけ展」プレミアムナイト① 仁和寺・国宝「三十帖冊子」全帖公開記念!ナイト@東京国立博物館 (2/3)

三十帖冊子の真の魅力に迫る“スペシャル対談” - おかざき真里さんと恵美千鶴子研究員対談

ちょうど先日発売された『阿・吽』の第7巻。第41話が、三十帖冊子にまつわるものである。 チケットを買った時にはこの対談は企画されていなかったのだが、非常に面白かった。

はじまり

おかざき氏は、司馬遼太郎の本にも出てこないこの三十帖冊子をどう描こうか悩んでいた。この「仁和寺と御室派のみほとけ展」の話が主催の読売新聞社からあり、渡りに船で、1週間くらいという短い期間で最初の対談が行われた。

その時に複製本を見て、小さい、字が細かいというのを実感として得ながら、恵美研究員と話をかわしながら、この第41話の話の筋を作っていったのだとか。

美研究員は、まだ若輩なのに空海をやることになるというのは予想しておらず、この歳で取り組まないといけないことに戸惑いながらも、進めていったという感じ。

空海の書

他の空海の書は、地位的にも全て後世で公開されることを前提として書かれている。

例えば、最澄に宛ててのちに書く『風信帖』(現、東寺に収蔵)は、最澄の文字を真似るなど、全くキャラクターが異なる。

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By 尾上八郎 - 和様書道史, パブリック・ドメイン, Link

 

しかし、この三十帖冊子はあくまで私的なノートという感が強い。

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By Kukai - [1], パブリック・ドメイン, Link

 

三十帖冊子の作られ方

冊子は粘葉装(でっちょうそう)と言われる古い綴じ方をしている。

大きさは、どれも微妙に異なり、仏教の経典の巻物を例えば半分にしたもので標準化されているということでもない。おそらくその大きさの紙がありそれを冊子化したものではないか、という仮説。

文字鑑賞として

いろんな人が時間優先で書いている。恵美研究員のいうように第一帖から見ていくと楽しい。『阿・吽』第41話に詳しいのだが、空海が唐の長安から日本に持って帰るために、密教のお経を大量に写すのだが、その時に「写植マシーン」的な人を中心に、いろんな人がこの三十帖冊子に手を残している。一部には空海、そして橘逸勢と伝えられるものもある。

おかざき氏「どの字が空海かなんてなぜわかるんですか?」

美研究員「すぐにわかります。空海の字を見たら落ち着くんです」

展示には「空海」などと注釈で書いてあったのでよかったのだが、図録にはそういうのはなかった、残念。

また、空海は遍照金剛という名をもらっているためか「金剛」という文字がちょっと特徴のある書き方をしているので、それを見ても空海かどうかわかるらしい。

 

美研究員は、グッズ作成のために空海の文字を拡大したものを見せてもらったところ、こんなに拡大してもこんなに美しいのかと驚いたそうだ。

ちなみにこのグッズとは「空海筆お手本帖三十帖冊子 48字入り」のこと。大きさはポストカードくらいだが、長く使って欲しいということで厚めの紙になっているそうです。私は知人へのお土産に買いました。

最後に萌えポイントとして、この三十帖冊子と同時に、隣のアクリルボックスの中に、最澄に渡す冊子も同時に展示されていることがあげられた。萌えかどうかは置いておいても、書き写されてから約1200年後に東京で出会うってのも、なかなか趣深い。

実際に見てみて

冊子サイズは、kindle white paperを横向きに置いた時くらい。文字サイズは1帖とか8条なんかは、6mm角くらいで、老眼の私にはキツイレベル。写経なので、ベースラインが微妙にずれる。

写経専門の方の文字は、楷書でとても細かく、言われた場所をそのまま「人間写植マシーン」として書いているだけ。キレイではあるんですが。

ところが、空海になると、崩して行書だったり草書だったり、そのまんまを書写しているわけでなく、書かずとも良い部分を「等」の草書体でカタカナの「ホ」に似ている文字で略したりと、とても人間臭い感じの字である。

三筆ということは知っていたものの、空海の字を見て美しいと感じたことがなかったのだけど、初めて楽しいとおもうようになった。

あと、梵字の書き方が、ちょっとねっとりしていて美しいと思った。魔除けになりそうw 図録に書いてあるページとは別のだったから、第何帖かは、わからないのだが。

空海の文字に着目した本って、うまく見つけられなくて。三筆という割には研究されないのかなあと、ちょっと悲しい。