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見たものと、読んだもの

吉田秋生『海街Diary』第9巻 (完結)

行ってくる、という副題の通り、みんながそれぞれの道を歩み始める卒業の巻。

海街diary 9 行ってくる (フラワーコミックス)

海街diary 9 行ってくる (フラワーコミックス)

 

 

初出が2006年の月刊Flowersなので、足掛け12年で完結したことになる。干支一回り。

すずはこの時、13歳。最終巻である今回で、中学を卒業して高校に行く。

私は単行本派であるが、長い間付き合ってきているので、一人の親戚の女の子が成長していく、というような感じがしている。

この2年間で成長したのは、末妹のすずだけではない。幸、佳乃、千佳の3名もそれぞれに成長していく。

前回書いたように、

海街Diary』は、ふつうの人が、ふつうのひととかかわりあう中で、苦しみ、理解し、受け入れるかどうかは別にして許し、そしてふつうの生活をして人生は続いていくという話。

ということをシミジミとおもう。

 

吉田秋生は、とてもフェアな作家なのだと思う。

人は、成長する。中学生のすずも、山猫亭の親父さんも。

人は人を好きになる。男が女を。男が男を。女が女を。

できる人は、できることをやる。できない人は、できなくても、できないことで人に迷惑をかけてムカつくけどしょうがないと諦める。少なくとも幸は、諦める。

心配しているという意図はわかるが、それでもそれが相手の心の柔らかいところに土足で踏み込むことになる。そこでそれを無理に我慢はしない。しなくていい。

その人が、精一杯その人でありさえすれば。

相手も、自分も悪い点を持っているので、いい意味でお互いに迷惑を掛け合いながら、生きていく。

 

クロスオーバー作品だと知らなかったので、今回ついでに『ラヴァーズ・キス』を読んだ。

ラヴァーズ・キス 新装版 (フラワーコミックス)
 

海街Diary視点でいうと、佳乃と恋仲になっていた藤井との話。ちょっと最後、衝撃的でしたけどね。藤井くんは藤井くんで幸せになることを望む。また、そうしたいと思ってなのかな、これが1995年の作品で、海街Diaryが2006年と10年のスパンがあるが、吉田秋生も藤井くんになんとか幸せになってほしいと思っていたのかしらん。

絵柄は、だいぶ古い。”Banana Fish" の連載完結直後くらいなので、そんな感じの絵柄。漫画家の絵柄は、小説家の文体と一緒だと思うので、作者にもそれなりの変化があったのだろうなあ。

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