失語症 の女の子と、嘘のつけないおじさんの、「ただいま」までの現代のおとぎ話
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159分と長いので、お時間あるときにどうぞ。
主演の二人のチャーミングさ、美しい映像、楽しいダンスシーンで、飽きずに最後まで見られると思います。
楽しいおとぎ話編
映像は、とてもカラフル。
デリーの市場の様子も、聖廟での祈りも、スイスのような山岳地帯も。全てが絵葉書にできそうな美しさ。
女の子が、偶然置き去りにされてしまう様子、それを悲しむ母。自分との婚約を確定するための、父との約束よりも、女の子を家に届けることを優先させよという姿。現代のおとぎ話だ。
そして、おとぎ話は、ハッピーエンドで終わる。その「収まった」感。
踊りの振り付けも今のストリートブラック系のものとは全く違うもので、私にはとても新鮮だ。
歌もハヌマーン 神のお祭りなおに「セルフィー撮ろう」なんてセリフが入るのには爆笑させられた。それが、きちんと「現代の」おとぎ話としてのアップデートがされている感がある。
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チキンダンス!
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菜食主義の家に生まれているので、食べられないはずなのに、ムンニーのために歌うなんて、なかなかできることじゃないよね。奥さん(婚約者だけど)、男前で大好きだ。
キャラク ターは、やはり主演の二人。
失語症 の女の子(シャヒーダー/ムンニー)。底抜けに明るい天然のいたずらっ子の表情と時折見せる悲しみの表情の振れ幅がかわいい。子供とはいえ、ムスリム 女性の顔が丸出しなのは初めて見たかも。
バジュランギを演じるサルマン・カーン は、インド映画の三大カーンの一人ということだが、私は初めて。今まではアクションスターとしてインド映画界を牽引ということだったが、確かにすごい分厚い肉体で、レスラーっぽいほどだった。
「至誠天に通ず」を指針として、一言罪のない嘘をつけばいいところでも、本当のことを真正面から言ってしまうというところを、助けてあげたい愛嬌のあるキャラク ターとして演じるのは演者の魅力。ハヌマーン 教徒って、教義で嘘を禁じられているのかしら?
憎しみではなく、愛を!
暗い過去編
インドとパキスタン は、歴史的に対立があり、何度も戦争をしている。
元々は、英領インドとしてイギリスの植民地だった。第二次世界大戦 後の1947年、インドは、ガンジー などの努力もあり、ついに独立する。しかし、統一インドではなく、インドとパキスタン として。インドはヒンドゥー教徒 の国として、パキスタン はイスラム 教徒中心の国となる。*1
名作『ガンジー 』の中でも、統一インドとして独立できない悲哀が描かれている。
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分離独立の際は、インドにいるムスリム はパキスタン へ、パキスタン にいるヒンドゥー教徒 はインドへと相互に移動し、それに伴って難民化と、虐殺が行われた歴史がある。ロケがおこなわれているパンジャブ / Punjab地方もそう。
この後も、カシミール 地方(そう、ムンニーのふるさと)の領有権を巡って、インドとパキスタン (そして中国)での戦争も何度かある。
赤色で囲ってあるのがカシミール / Kashmir *2 地方、点線が現在の(暫定?)国境線。基本はインド領だが……。
By Central Intelligence Agency, Washington, 2002 - This map is available from the United States Library of Congress 's Geography & Map Division under the digital ID g7653j.ct000803 . This tag does not indicate the copyright status of the attached work. A normal copyright tag is still required. See Commons:Licensing for more information., パブリック・ドメイン , Link
バジュランギの婚約者ラスィカーの父が激昂するのは、この戦争で、近しい人を失ったのかもしれない。(歳を考えると、1971年の第三次インドパキスタン 戦争かな)
食べ物
ヒンドゥー教 はインド由来の宗教全般をさすらしく、仏教もインドの中の広い意味ではヒンドゥー教 の一派扱いなんだそうな。
ヒンドゥー教徒 のバジェランギは、インドの約40%の人と同じく菜食主義者 。だから、肉は食べない。なので、ムンニーが隣のムスリム のところで鳥肉を食べているのを見てびっくりする。
私の知っているインド人は、確かに菜食主義者 多い気がする。*3 酒も飲まないし。もちろん、肉を食べたり酒を飲んだりする人もいるので、線引きは人によるという感じかもしれない。
しかし、菜食主義であのレスラーみたいな体を維持できるってすごいねぇ。肉じゃないとできなさそうな体なんだけど。大豆由来プロテイン の力??
ちなみに、インド人の菜食主義者 とのご飯は、インド系の人がやっているカレーレストランに連れて行くのが一番楽。厳密な人は肉どころか鰹出汁のものもダメだから、普通の日本人では、何を進めていいのかよくわからないので。
カシミール のカレー、美味しいんだよねぇ。
お猿さんです。一説に孫悟空 の元ネタ。「ラーマ万歳!」
心の中にいつも、ラーマとシータを(胸を開けると物理的にいるよ、の図)
By Anant Shivaji Desai - http://www.barodaart.com/oleographs-ramayana.html , パブリック・ドメイン , Link
『ラーマーヤナ / Rāmāyaṇa』という「マハーバーラタ 」と並ぶインド二大叙事詩 で、ハヌマーン とラーマの話は語られている。
ラーマ王子はシータ姫と結婚。ラーマと対立するラークシャサ族*4 が、シータを誘拐。拐われたシータを探しだしたのがハヌマーン 。ラーマはラークシャサ族との戦争に勝ち、シータを奪還。
ハヌマーン は、ラーマに忠誠を誓い、勇気を持って戦う神様なのだ。
バジュランギは、この映画でハヌマーン として行動する。*5 愛らしく、困難に立ち向かい、勇気と忠誠を持って、ミッションである送り届けを完遂する。そういう意味では、この映画はおとぎ話というより神話なのかもしれない。
おすすめです!