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見たものと、読んだもの

佐々木 常夫『そうか、君は課長になったのか』WAVE出版

名著と言われるものを読んでみるシリーズ。

主に部下になる人と、どう言う付き合いをして、何を目標にしてやっていくべきか、という志の部分を問い直してくる、手紙集。 

著者の背景

いわゆる昭和な仕事をしてきた年代の人と、この著者では随分違うことがある。それは今でいう「ワークライフバランス」を取りつつ、仕事をしてきた実績だ。

著者が初めてか朝食についたのが、1984年。まだ昭和の高度成長期の匂いを残し、まだバブル期に入っていない時代。長時間労働こそが「頑張っている」とされていた時代に、著者は、妻の看病と子供の世話のために、激務にも関わらず毎日午後6時に退社をすることを余儀なくされていた。それでも結果を出して、最終的に東レ経営研究所の社長を務めると言う実績を残している。

あまり描かれていないが、きっと、「なんであいつばっかり早く帰って」などというやっかみや誹謗中傷などもあったはず。それは、接待でゴルフに行かないと出世できないなどなどのその頃としては、当たり前の努力をしていないのだから、当時としては当然の冷たい視線だっただろう。

にもかかわらず成果を出して、出世させるべきと上長に思わせてきた、と言うところには、やはり大きな今でも通じるものがあるはず、と思って読んだ方がいい。少なくとも時代が違うよ、と捨てるよりは。

10年前の本なので、読み方を

いい大学を出て、 一部上場企業で働いて出世していくという神話時代を過ごしたことが経験値として語られる部分もある。この本は2010年に出ている。つまりリーマンショック(2008年)の後。2021年現在の、どんどん転職が当たり前になりつつあるところとは、社会の状況が違う、と言うのは折り込まないといけない。

今は、「出世は男子の本懐」と言うような感覚が、だいぶなくなってきているようにもみえる。多分そう言って昔大企業に入っていた学生は、起業に流れているのかな、と言う気がします。

しかし、根本のところは、変わっていないのだと思える。

課という単位の人間をまとめること。その時の気をつけるべきこと。目標の立て方。これは、スタートアップの小集団でも、大企業の中のチームであっても、社内外をまとめるクロスファンクショナルグループでも、それはあまり変わらない。

 

内容について、少し。なかなか実践的

これも往年のベストセラー『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙』の形式をとったものなので、この本の紹介としては目次がいいかもしれない。

第一章 まずはじめに、「志」をもちなさい

第二章 課長になって2か月でやるべきこと

第三章 部下を動かす

第四章 社内政治に勝つ

第五章 自分を成長させる

 

まず、基盤となる「志」を持て、着任後動くチームにするために最初にすべきこと、部下マネジメント、ボスマネジメント、自分マネジメント。

課長は初めてプレイヤー以外の視点で行う業務なので、プレイヤーでない動き方とは何か、その情と理を説く。とはいえ初心者なのでまごつくから、最初の二か月の過ごし方を教えた上で、慣れたら大きな視点で部下、上司、自分をどう動かすかを説くという順番だ。

かなり実践的だと思う。マネジメントする立場になって長い人は、原理原則を振り返るため、新米マネジャーは困った時に立ち返るため、マネジャーになろうとする人はこういう視点の変化があるんだなという準備のために、読むのをおすすめしたい。

 

 

チームの動かし方の書き方が、かなり実践的

具体的な記述で面白い、ためになることは多いのだが、私が注目したのはここ。

チームでの動かし方で、「何のために」「いつまでに」「どの程度まで」「誰と誰がするか」を決めた上で、進捗状況を確かめ、必要に応じて柔軟に変更し、遂行する、と言うようなことが書かれている。

当たり前なんだけど、できているところは、割と希少かつ貴重。

実はこのためにこそ、議事録が大事だと思っている。会議が無駄だと言う人は、そういう議事録が取られていなくて、そのために遂行するべきものが何かぐずぐずになっちゃっている場合が多い。

だから、「見える化」は大事だけど「言葉化」も大事だと思うのよね。過去のことはFactがあるから「見える化」できる。未来の事実は予想できる。でも未来に対する意思表示は、言葉でしかできない。これは人が言葉でものを考えている限り、不可避なことだと思う。だから、言葉力は磨こうぜ、という気になった。