cafe de nimben

見たものと、読んだもの

ソフィ カル ─ 限局性激痛 @原美術館

恋に破れてから、再生するまでの「ありふれた」話

www.haramuseum.or.jp

 

原美術館が2020年で閉館するというニュースがあったので、忘れる前に行きたいなと思ったのもあり、観に行った。

物語性がある、そして原美術館ならでは、という繊細な展示だったので、ぜひ足をお運びいただきたい。

ソフィ カルは、1953年生まれのフランス人。コンセプチュアルアートの人、というのがいいのかな。なお、wikipediaの日本語版には説明がなかった。英語版を貼っておく。

en.wikipedia.org

 

展示 1F: Unhappiness までの歩み

1984年。婚約直後に、日本に三ヶ月滞在できる奨学金を得てパリを離れるソフィ カル。

Unhappiness まで x-day として、"92 DAYS TO UNHAPPINESS" から始まるカウントダウンが、パスポートに押されるような赤いスタンプが押されたモノクロ写真などの「その日」を表す何かが展示される。

旅に出て、旅の途中の出来事が、パリ、中国、日本と綴られる。"n DAYS TO UNHAPPINESS" というカウントダウンによって、ただのモノクロ写真が、激辛ソースがかけられたような味わいに変わる。とはいえ、何が Unhappiness なのかは、最後まで1Fでは語られない。緊張が高まる一方。

展示 2F: Unhappiness からの歩み

Unhappiness とは、父の友人でようやく婚約までこぎつけた男から振られたことだったと開陳される。(振り方はちょっとひどいと思う!)

写真と、その下に機械刺繍された日本語テキスト。ソフィの、他人の、別の日のソフィの、という順に並べられている。

最初は振られた痛みが爆発しているような長くとっちらかった文章だったのが、日が経つにつれ、冷静で突き放した短い文章になっていく。それにつれて、テキストを刺繍する糸の色が背景に溶けていく。それは痛みが溶けていったのを表すかのように。

露悪的とも言えるほどの、自己開陳具合。自分の愚かさですらさらけ出す。もちろん、いろんなトリミング/企みがあるはずなので、ストレートに、ということもないのだろうが、それが心理的エグミというか、唯一無二的な、個人的なものとして提示されるので、どうしたって自分の「最悪の日」が掘り起こされる。そしてそれが、再び癒されていく(のだといいな)

機械刺繍のテキストで、文章の色味を変えていくのに気付くまでは、これは現代芸術として展示するよりも、文学として提示されるべきものではなかろうか、なんか変なのとくらいに思っていたのだが、色々と仕掛けられたものに気付くと、これは原美術館でこのように展示されるのがベストなものだなあと感じる。そう、このコレクションが絵画なら、原美術館が額縁、という感じなのだ。

建物

原美術館外観

原美術館外観

1938年に実業家で日本航空会長などを歴任した原邦造の私邸として建てられたものを美術館としている。設計者の渡辺仁は、現在の銀座和光を設計した方なので、そういうモダンさ。庭の感じとか、近くの低層高級住宅街な感じとかも合わせて、なかなかいい感じ。

トーハク(これも渡辺による設計)や根津美術館のようなものは例外として、東京の美術館博物館は割とビルの一角にあることが多いので、贅沢で素敵。

庭にはいくつか作品も展示されている。写真の左に写っている公衆電話もそう。

館内は撮影禁止なので写せなかったが、そちらもなかなか良かったですよ。住むとなったらどうなるかは、ちょっとわかんないけど。