本展は、宮内庁三の丸尚蔵館が収蔵する皇室の珠玉の名品に、東京藝術大学のコレクションを加えた82件の多種多様な作品を通じて、「美の玉手箱」をひも解き、日本美術の豊かな世界をご覧いただくものです。代々日本の文化の中心に位置して美術を保護、奨励してきた皇室に伝わる多くの優品は、特筆すべき重要な存在です。
前期と後期で結構目玉が入れ替わり、全く別の展示会のようになっていた。
面白かったところは、惜しげもなく、国宝を含めてオールスターが並んでいる感じなところ。その流派の流れとかは自分で保管する必要があるのは、オールスターのいいところでもあり、悪いところでもある。面白くなかったところは、順路が複雑なところ。
写真撮影は不可。
個人的に好きだったものたち
狩野永徳『唐獅子図屏風』右隻 /狩野常信 左隻 (-8/28):国宝
図屏風として立ててあるように展示されているので、いろんな角度で見た時に、唐獅子の体が折り畳まれている様が、また面白かった。近くで見ても遠くで見ても飽きない。
私の中で、狩野派といえばこの一枚。
個人的に、柴田勝家などの天正の大名がこんな顔だったのではないかと妄想する。
前回見た『桃山』展 (2020)。この時はひ孫が描いた左隻はなかったが、今回はあった。
図屏風は、パネルのように貼ってあるのもいいが、床にたててあるのはいいねぇ。
伊藤若冲『動植綵絵』(国宝)
6年前の2016年に伊藤若冲生誕300年記念展(東京都美術館)で見たやつの、一部再来。三の丸尚蔵館のものに限られるため、今回は相国寺の釈迦三尊はありません。動植綵絵も30幅ではありませんが、その分、じっくりみることができました。細かいところまで書き込まれたHD的な美しさと、大胆な構図は、何度見てもたまりません。高解像度の望遠レンズで高速度撮影をしたような感じなんですよね。この感じ何に似ているかといえば、スタンリー・キューブリック監督作品かな、映画だけど。
芦雁図の対角線に線を引いて、左上の雁の暗色と、右下の雪の白さの対比とか、涎でそう。
伊藤若冲 - Anthology of Fine-Arts, HIkarimura, Tokyo, Japan ACE1927-1929, パブリック・ドメイン, リンクによる
この、カエルさんたちの造形のかわいらしさとか。カエルさんのコンポジションも、遠近法関係ないので、琳派風味があって面白い。
伊藤若冲 - Impressions, Number 34, 2013, パブリック・ドメイン, リンクによる
鶏さんはどれも好きなのだけど、今回展示されていたものの中では、これが一番好きだった。ひまわりと朝顔 vs 鶏。
伊藤若冲 - https://www.kunaicho.go.jp/culture/sannomaru/syuzou-12.html, パブリック・ドメイン, リンクによる
前期の酒井抱一『花鳥十二ヶ月図』のように、季節と組み合っていたらちょっと面白かったかも。でも30幅あるから、月とは合わないからなあ。やはり、釈迦三尊と同時というのが、また見てみたいところ。
教科書で見たやつ:蒙古襲来絵詞(国宝)
元寇とはもう言わないらしいと聞いてびっくりしているというのは置いといて。
前期では、まさに、以下の部分を見ることができた。
筆者不明。竹崎季長自身は絵巻を注文しました。 - 蒙古襲来絵詞, パブリック・ドメイン, リンクによる
以下に書いていた「てつはう」は上図に描いてある。
後期はまた別の巻が展示されていた。
主人公である竹崎季長一行が出陣する時の様子。勝って褒賞をもらってくるぜ、とばかりに意気揚々で楽しそうだった。
北野天神縁起絵巻
不明 - http://journal.mycom.co.jp/news/2008/05/01/005/index.html, パブリック・ドメイン, リンクによる
#今回展示されている中巻では、雷神さんは赤ではなく青。清涼殿に雷を落とす。
菅原道真が雷神になって暴れている様が描かれているのを生で見るのは初めて。陰陽師などでも必ず出てくる雷神道真の総本家です。陰陽師瀧夜叉姫を読んでいるところなので、道真さんが出てくるとなんか嬉しい。大学受験の時に天満宮にお参りも行ったしね。
こういう時、巻物に書かれている文章が読めるといいんだけどね。要約はパネルに書いてあるにしても、実際に何が書いてあるのか、読めないので。
そういうアプリは、人文学オープンデータ共同利用センター(Center for Open Data in the Humanities / CODH)で開発、無償公開されている。実際に現場でこれをやろうとすると、多分、写真撮影していると思われて怒られてしまうんだろうけど。列も止めてしまうし。
春日権現験記絵(巻四、五):国宝
今回のものは鎌倉時代後期の高階隆兼によるもので、国宝。
色もきっちり残っていて、美しい。
#最初の巻が展示されているわけではないので、鹿島立ちの図は展示されていない。
『春日大社 千年の至宝』(2017/トーハク)でも『春日権現験記絵』は展示されていたのだが、こちらは松平定信が指示して作らせた春日本。
なぜ春日大社の持ち物ではないかというと、
本来,春日大社に秘蔵されていたが,江戸後期に流出し,その後鷹司政熈のもとに蒐集,そして明治8年〈1875〉と同11年の2度にわけて,鷹司家より(宮内庁に)献上された
とのこと。ということは、松平定信が指示して作らせたというのは、これの写本で、この写本を春日大社が収蔵しているということなのかしらん?
また、鷹司家から献上されるってことは、この記絵の詞書が前関白鷹司基忠だったことから、鷹司家が音頭をとるものとされてたのかしらん?
またそもそも、秘蔵の品がなぜ江戸時代に市中流出したのかしら? と結構謎が多いですね。
酒伝童子絵巻
こちらは酒「呑」童子ではなく「伝」
https://www.kunaicho.go.jp/event/sannomaru/tenrankai69.html
攫われた姫に、山伏姿で会うところ。酒呑童子が仲間を集めて宴を始めるところなどが活写される。後期では、酒呑童子の首が飛んでいるところが展示されていた。
酒呑童子の話は、いくつもバリエーションがあるが、この『酒伝童子絵巻』は、ほぼこの青空文庫に収録されている版に近しい。
源氏物語を見比べる
『源氏物語図屏風』*1(伝 狩野永徳)と『源氏物語画帖』(伝 土佐光則)
同じ源氏物語モチーフで、金箔という共通点があるのに、図屏風の方は陽キャ的なキラキラとした華やかさ、画帖の方は静けさを感じる。まあ、そこが狩野派と土佐派の特色だと思うのですが。
狩野派なのでキラキラしい。特に女性ばかりの部分とか(女性ばかりの部分は場面特定できないそうだ)狩野派で源氏物語ってあんまり聞かないけれど。
土佐派は、すごくキレイだから、これで見てみて。(これは京都国立博物館のもの)
↓ 土佐派の『源氏物語絵巻』をみた話(2020)
『法隆寺夢殿本尊』(救世観音像)拓本
大きくて仰ぎみる感じで、心安らかになるお顔でした。
ノーマークで好みだった作品
展示されていることを知らずに見てみて、好みだった作品たち。
酒井抱一『花鳥十二ヶ月図』
琳派の酒井抱一による作品。月毎に花と鳥(鳥といっても、キリギリスやアマガエルもいるのだが)のセットで描いてある掛け軸。ものすごく好き。
七月:玉蜀黍朝顔に青蛙図
酒井抱一 - Anthology of Fine-Arts, HIkarimura, Tokyo, Japan ACE1927-1929, パブリック・ドメイン, リンクによる
青蛙がちょこんと乗っていてかわいい。
海北友松(かいほうゆうしょう)の図屏風
特に『網干図屏風 』が、特に好み。
これは、漁師が漁りに使った網を金地の浜辺に干している図。干された網が、キャンプのテントのように大小のリズムを持って並んでいる。リズムを持って並んでいるところは、尾形光琳『燕子花図屏風』っぽい。
海北友松は桃山時代から江戸初期の人で、狩野派に絵を習ったようだ。でも狩野派というより琳派っぽい感じ。
全体的な展示として:
光の色温度が低め
光量が少ない。細かいところを見るのは、ちょっと辛かった。これは、保護のためだから仕方ない。
光の色温度が低い(ざっと3,000K暗い?)。(オレンジというかベージュというか)
図録だと白は白として写っているので、6,000Kくらいかな。このため、印象が異なる。
暗かったためにそこまでいいと感じなかったのが、太平楽置物。色味があんまりわからなかった。図録を見ると、すごくいいんですよ。(後期ではちょっと明るくなった? 色味がわかるようになっていました。私の目のコンディションの問題かもしれませんが)
逆に、これの良い点は、金色の図屏風を、夕方くらいに実際に置いてみた時の感じがわかること。しかも、図屏風は、ちょっと高めの台に載っているので、しゃがむとちょうど畳の間で正座したくらいの高さになる。これはとてもよかった。
三の丸尚蔵館は工事中
来年(2023年/令和5年)に改装完了予定。
改装工事中に他のところに大規模展示するというのは、よくあるパターン。
また、同年の10月1日から管理・運営を宮内庁から独立行政法人・国立文化財機構(トーハクなどを管理しているところ)に、収蔵品は文化庁に移管。移管後、どうなるんだろう?
参考
*1:若紫、常夏、蜻蛉の3つがモチーフ